2024年5月末のWHO総会で採択されるパンデミック条約の問題点について、公衆衛生に対するオーソドックスな観点からいくつか見ていく。写真はジュネーブにあるWHO本部(Photo by Fabrice COFFRINI / AFP) (Photo by FABRICE COFFRINI/AFP via Getty Images)

パンデミック条約が公衆衛生をダメにする、元WHO職員が警鐘(上)

この先のパンデミック対策において、世界保健機関(WHO)を中心に据えようという例の提案書について、様々な意見が飛び交っている。巨額の資金が動いているだけに、客観的に状況を把握するのはなかなか難しい。

それでも、基本的なところは押さえておくことができる。本稿の内容は、公衆衛生の知識がある人なら誰でも認めるはずだし、そうではない人でも、時間をかければ受け入れるはずだ。政治家たちだって、切り取り報道を気にせず、党利党略を脇に置くことができれば、認めるはずだ。

ということで、今月末のWHO総会で採択されるパンデミック条約の問題点について、公衆衛生に対するオーソドックスな観点からいくつか見ていこう。

事実無根の緊急事態

パンデミック条約と国際保健規則(IHR)の改正は、「パンデミックのリスクが急速に高まっている」という主張に基づいて推進されている。実際、2021年に「G20ハイレベル独立パネル」は、パンデミックが「人類の存続を脅かす脅威」をもたらすとしている。

WHOや世界銀行、G20などは、「自然なアウトブレイク(感染症の突発的発生)の報告が増加していること」を根拠にこういった主張をしている。しかし、それは事実無根だ。英国のリーズ大学が最近行った分析から分かる。

アウトブレイクに関するほとんどの分析はGIDEONデータベースに依拠している。このデータベースは、自然なアウトブレイクとその結果としての死亡率が過去10〜15年の間に減少していること、そして1960年から2000年の間における増加は、アウトブレイクの検出・記録に必要な技術(PCRや抗原検査、血清検査、DNA塩基配列決定など)の開発によるものであること示している。

WHOはこの分析に異議を唱えることなく、ただ無視している。

例えば、ニパウイルスが「出現」したのは、それを検出できるようになった1990年代後半だ。今では、コロナウイルスの新たな変異株を容易に見分け、医薬品を促進することもできるようになった。いずれも、検出できるようになり、気づけるようになっただけであって、リスクに変化はない。

また、ウイルスを改悪することもできるようになった。これは比較的新しい問題だ。

しかも、WHOは中国によって浸透されており、WHO総会の執行理事会メンバーには北朝鮮が選ばれている。彼らが将来的に生物兵器による緊急事態を管理することになって本当にいいのか?

新型コロナウイルス感染症が自然発生ではなかった証拠が増えているにもかかわらず、世界銀行は次の10年でアウトブレイクが3倍に増加するとしている。しかし、その主張の裏付けとして引用されているモデリングでは、新型コロナのようなイベントが再び発生するのは1世紀に1回未満と予測されている。

WHOは、過去20年間におけるアウトブレイクの増加を示唆するために、コレラ、ペスト、黄熱病、インフルエンザの亜型などを持ち出すが、これらの疾病は過去数世紀においてもっと桁違いに酷い状況だった。

以上のことを踏まえると、ますます混乱してくる。なぜWHOは、加盟国に提案書の中身をきちんと検討する時間も与えないまま、自らの法的要件を破ってまで採決を強行しようとしているのか。

そんなに切羽詰まっているのは、公衆衛生上の必要性以外に理由があるに違いない。その理由については、人それぞれ考えればいい。しかし、私たちは人間だ。法的拘束力のある国際協定の準備が進んでいる時だって、守るべき自我がある。

比較的小さい疾病負荷

急性疾患のアウトブレイクによる疾病負荷、つまり死亡率や損失生存年数(疾病により失う命の年数)は、全体的な疾病負荷の一部分に過ぎない。マラリア、HIV、結核といった多くのエピデミック(地域流行)規模の感染症や、増加している非感染性疾患に比べれば、その疾病負荷ははるかに小さい。

過去20年間の自然なアウトブレイクで千人以上の死者を出した例は少ない。ちなみに、結核は8時間で千人以上の命を奪っている。より疾病負荷の大きい疾患が公衆衛生の優先事項となるべきだ。その疾病が儲からなそうでもだ。

現代における抗生物質の開発により、過去に大きな災厄となったペストやチフスによる大規模なアウトブレイクは発生しなくなった。インフルエンザはウイルスによって引き起こされるが、死亡のほとんどは二次的な細菌感染によるものだ。そのため、スペイン風邪が繰り返し流行するような事態は1世紀以上見られていない。

医療技術は向上し、栄養状態や衛生環境も一般的には改善した。旅行が広く普及したことで、免疫が未熟なままの大規模集団が発生するリスクがなくなった。つまり人類の免疫は強靭化した。がんと心臓病は増加しているが、感染症は全体的に減少している。では、私たちは何に焦点を当てるべきだろう?

関連記事
台湾の賴清徳総統は11月2日、名古屋で開かれた日台交流サミットにビデオメッセージを寄せた。日台を「運命共同体」と位置づけ、民主主義と平和、繁栄を守るため、地方・民間交流の深化と幅広い分野での協力を呼びかけた
北朝鮮の国営メディアは10月31日、北朝鮮がクラスター爆弾の試射を行ったと報じ、1発で13ヘクタールの区域内にある全ての目標を攻撃できると主張した。韓国軍合同参謀本部は11月1日、米韓双方が緊密に情報を共有し、事前に動向を把握した上で警戒態勢を維持していたと明らかにした。
プーチン氏が提案した米露中三か国による首脳会談構想。実現すれば、国際秩序や米国の同盟関係にどのような影響を及ぼすのか。中ロを利する可能性など、構想に潜む10の懸念を指摘する
中共商務省は新たな規則案を公表した。中国の営業秘密を侵害し、国家の主権・安全・発展上の利益を害したと認定された外国企業などに対し、中国国内での投資を制限・禁止し、関係者の入国や就労・在留資格も制限する内容だ
中国からの巨額融資で深刻な債務危機に陥ったアフリカのザンビア。国際調査で明らかになった中国工商銀行の融資手法や不透明な契約、難航した債務再編の実態とは