中国の不動産市場低迷が世界の鋼材市場に衝撃を与える

中国の不動産市場の低迷と鋼材産業における生産過剰が大量の安価な鋼材の国際市場への供給と、どのように繋がっているのか、世界経済に及ぼす影響と対策について詳しく解説する。

鋼材の大量輸出が世界市場に及ぼす影響

2024年の初めの2か月間で、中国の鋼材輸出量は過去8年間で最も高い水準を記録した。中国石炭資源ネットワークと中国税関総署の報告によると、この期間中に約1591.2万トンの鋼材が輸出され、前年同期比で32.6%増加した

一方で、輸出価格は平均32.1%下落し、1トン当たり791.7ドルとなった。これは、不振にある中国の不動産市場と、国内の過剰生産能力を海外市場へダンピングで解消しようとする政府の試みである。

中国の不動産市場と鋼材産業の現状

新型コロナウイルス流行後、中国国内消費市場は期待したほど戻らないため、専門家たちは中国の鋼鉄、自動車、太陽光パネルなどの産業は、生産能力が過剰であると指摘している。

コンサルティング会社Kallanish Commoditiesのアジア担当編集者であるトーマス・グティエレス氏によれば、中国共産党は「両会」後、不動産市場の低迷に対応する形で、中国の鋼鉄企業の輸出契約価格を大きく引き下げ始めたという。

ムーディーズ・アナリティクスのハリー・マーフィー・クルーズ氏は、効果的な経済刺激策が不足しているために、今年の建設業界の計画は縮小され、鉄鉱石価格へ影響が及んでいると分析している。

加えて、シドニーのANZ銀行(オーストラリア・ニュージーランド銀行)やモントリオール銀行のアナリストたちは、中国国内の需要の弱さと先進国における緩和的な金融政策の導入により、中国の鋼鉄は輸出増加につながったと指摘している。

地政学的戦略

中国共産党(中共)は、国内プロジェクトに必要な鋼材の供給を越えて、「一帯一路」イニシアティブによって支援する途上国への鋼材輸出に力を入れている。

この取り組みは、経済的利益だけでなく、地政学的および戦略的な目的を持つとBMOキャピタルマーケッツのアナリスト、コリン・ハミルトン氏は指摘する。これは、鋼鉄産業を通じて国際的な影響力を拡大しようとする中国の意図を示している。

国際市場への影響

一部のアナリストは、2016年に見られた中国の鋼鉄ダンピングと比較して、西側諸国が関税やその他の貿易障壁、グリーン鋼鉄への補助金といった措置により、より効果的な保護を実現したと考えている。

中国製鋼鉄はインド、日本、ベトナムなどのアジア諸国を経由し、熱間圧延コイルやその他の製品として欧州に輸出され、西側市場に流入している。この流れは国際鋼鉄業界に影響を及ぼし、世界の鋼鉄市場の安定に懸念を引き起こしている。

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