カトリック教徒主体のメキシコで、以前ならほぼ不可能に思えた判決が出た。人工妊娠中絶をした女性が投獄されてきた同国で9月6日、最高裁判所の裁判官が全員一致により、連邦政府が中絶を犯罪とすることを違憲と判断したのだ。写真は「刑法から中絶を排除せよ」と書かれた横断幕。3月8日、メキシコ市のソカロ広場で撮影(2023年 ロイター/Quetzalli Nicte-Ha)

アングル:メキシコで中絶合法化へ、米国人希望者の流入増加も

[メキシコ市 8日 ロイター] – カトリック教徒主体のメキシコで、以前ならほぼ不可能に思えた判決が出た。人工妊娠中絶をした女性が投獄されてきた同国で6日、最高裁判所の裁判官が全員一致により、連邦政府が中絶を犯罪とすることを違憲と判断したのだ。

こうした包括的な判断を求めてきた中絶権擁護の活動家にとっては、2021年以来の大きな勝利だ。この年、最高裁判所は中絶を犯罪とする北部コアウイラ州の法律を無効と判断している。

この際の最高裁判決が重要な判例となって、連邦レベルの医療体制において中絶処置が提供されるようになり、この処置の利用を急激に拡大する道が開かれた。いずれは、厳しい制約のある法律を逃れようとする米国の中絶希望者にとって、メキシコという行き先が存在感を増してくる可能性もある。

だが、メキシコで中絶権を擁護している活動家らは、今回の判決で中絶処置を利用しやすくすることが約束されたとしても、一足飛びに現実になるわけではなく、行政・立法面における連邦政府の意向次第だとみている。

今回の判決で、中絶処置を受ける当事者と医療提供者が刑事訴追を免れるとしても、連邦レベルの公的医療制度が中絶処置を提供するようになるまでは、中絶処置の利用という点での効果は限定的になるだろう。連邦医療制度において中絶処置が法的に義務付けられるのは、当事者がレイプの被害者であるか、母体を守る目的の場合に限られていた。

リプロダクティブライツ(性や生殖に関する権利)の擁護団体IPASでラテンアメリカ・カリブ海沿岸地域担当ディレクターを務めるマリア・アントニエッタ・アルカルデ氏は、国民の大多数に対して包括的な医療サービスを提供する国家保健省にとって、投薬または手術による中絶処置を実際に導入するとしても、負担は最小限に留まるはずだと語る。

「できるかできないかではなく、政治的な意志があるかどうかが問題だ」とアルカルデ氏は言う。

国家保健省の広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

連邦レベルでの中絶処置の提供がいつ開始されるかは、誰が大統領に就任するかによっても左右される。

現職のロペスオブラドール大統領は、中絶に関する自分の意見を明らかにすることを慎重に避けてきた。先日、2024年6月の大統領選挙で後任の座を争う候補者として2人の女性が指名されたが、双方とも中絶の権利を支持している。

メキシコ市では以前、レイプによる妊娠に限って中絶を容認していたが、この制限を2021年に撤廃した。当時、市長を務めていたのは左派の与党・国民再生運動(MORENA)の候補に指名されたクラウディア・シェインバウム氏だった。

野党連合の候補者として指名されたソチル・ガルベス上院議員は、所属する中道右派の国民行動党が掲げる反中絶政策とは距離を置き、中絶の権利を支持している。

どちらの候補が大統領に就任するにせよ、合法的中絶の条件についての決定や、性・生殖に関する医療サービスへの予算措置など、最高裁判決の執行を指揮する仕事が待ち受けている。

「大統領候補たちが中絶についてどういうビジョンを持ち、中絶処置の提供をどのように支援するかが極めて重要だ」とアルカルデ氏は語った。

<米国の中絶希望者はメキシコを目指す>

メキシコにおける中絶の非犯罪化に先立って、近年長らく中絶を厳しく禁じていたラテンアメリカ諸国においてはすでに、リプロダクティブライツに関する進展が連鎖的に生じていた。今回の判決に至る訴訟を起こしたメキシコの啓発団体「GIRE(生殖に関する選択に関する情報グループ)」によれば、同国では2010年1月―20年1月までに、172名が非合法の中絶により実刑判決を受けている。

一方でラテンアメリカ諸国とは対照的に、米国では中絶に関する権利が否定された。

米国で人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を、2022年6月に米連邦最高裁が覆したことで、同国における中絶希望者の関心はメキシコに注がれるようになっていた。メキシコでは非公式なボランティアネットワークが円滑に機能し、長年にわたり在住者に中絶のための薬剤を提供してきたからだ。

メキシコではこのたびの最高裁判決のおかげで、国内のどの地域においても、国営の診療所であるか民間の事業であるかを問わず、中絶処置ははるかに容易になる。すると、米国人が中絶を希望してメキシコを目指す例はますます増える可能性がある。

グアナファト州を拠点として活動するボランティアネットワーク「ラス・リブレス」の創設者ベロニカ・クルス氏は「可能性が広がる。メキシコで処置を受けるという選択肢がさらに増えるだろう」と語る。同ネットワークによると、米国で連邦レベルでの中絶の権利が無効となって以来、中絶のための薬剤を求める米国人女性の流入が見られるという。

メキシコ連邦政府は連邦刑法から中絶に対する処罰規定を削除することを最高裁から命じられた状況であり、中絶権の擁護団体は、関連する法律に対し国会が中絶に関する規則を早期に追加することを期待している。

国会では、妊娠期間に関する制限など、メキシコにおいて合法的に中絶を行うための条件を決定しなければならない。中絶権の擁護団体は、その上で、州レベルでも中絶に関する規則を定める旨の条項を法律に追加することになると予想している。

メキシコの32州のうち、すでに州刑法から中絶に関する処罰規定を削除しているのは12州に過ぎない。だが、こうした連邦法で中絶が積極的に合法化されていけば、どの州でも中絶当事者は法的な保護を受けられることになるだろう。

GIREのイサベル・フルダ副代表は、メキシコ国内でどこでも中絶処置が可能になるまでにどの程度の時間を要するかは予測困難だが、連邦政府が中絶処置の提供に抵抗することがあれば、異議を申し立てる用意があると語った。

「現実問題として、施行には時間がかかる」

(Gabriella Borter記者 翻訳:エァクレーレン)

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