(大紀元)

高智晟著『神とともに戦う』(8)

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旧暦の12月27日、泣きくれて目の腫れも引かない母は、私を連れて出かけた。我が家のだれ一人として、母の行き先を聞こうとはしない。母に手を引かれ家を離れるとき、私は歩を進めるごとに振り返り、兄たちの表情をうかがった。あれは私にとって初めての、しかも一番の遠出であった。母は道中終始無言で、私の手を引いて歩いた。3時間ほど歩くと、我が家から10キロ余りの所にある西山という村に着いた。その村に入ると、母は私に「ここに目の不自由な伯母さんがいる。あんたの父さんは今年亡くなったばかりで、母さんもどう仕様もない。年越しに必要なものを伯母さんに借りられればいいのだけど」と話した。

 しかし、これもほぼ無駄足に終わった。伯母さんは目が不自由で、一人息子も養子であった。彼らの貧乏ぶりは、我が家といい勝負だった。母と私が粥を頂いて立ち去ろうとしたとき、伯母さんのその不自由な目から涙がこぼれた。そして伯母さんは、母の顔と頭をそっとなでると、洞窟から大豆のもやしを一碗分、手探りで取り出して来て、母に手渡したのだった。

 帰り道、私たちは、なかなか足が進まなかった。私には、母の考えていることが分かった。道も半ばまで来ると、あたりは真っ暗になった。家まであと2キロという小川に差しかかった時、母は大きな石に腰を下ろし、子供のように嗚咽し始めた。私の手を握りしめる母の手は、激しく震え、汗で濡れていた。

 ひとしきり泣くと、母は泣き止み、襟元で涙と顔をぬぐってから、私の頭をなでてくれた。そして、私の涙もぬぐうと、こう言った。「ああ、観音様。この父なし子になった子をお守りください。潤彗(高弁護士の幼名)や、あんたの父さんが逝っちまったから、母さんも途方に暮れちゃってね。でも大丈夫、母さんずっとこんなんじゃないから。年が明けたらまともになるからね」。これは母が涙ながらに言った言葉だ。我々が帰宅したとき、家中の誰もが、今か今かと帰りを待ちわびていた。

 それでも「天道、人を殺さず」という。4日後の旧暦の大晦日、我々は叔父さんのくれた500グラム強の肉にありつけた。そして元旦には、多めの大根の千切りに、叔父さんのくれた肉をわずかに加えた具の餃子が食べられたのだ。

 それを境に、母は強く、たくましい親へと変貌を遂げる。はるか長い悲しみの後、明らかなる毅然、わが子への強い愛情と責任感は、母を成長させた。この母のもと、我々もたくましく育って行く。

 2006年の旧暦の元旦、かつて母と私たちが住んでいた陜西省北部の母の洞窟にて。

 (続く)

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