長年にわたり、歯周病とアルツハイマー病のリスクの増加との関連が指摘されてきました。研究により、炎症を起こし出血する歯ぐきが、病原菌が血流に入る入口であり、これが認知症を引き起こす問題を引き金にすることが明らかになっています。
これは、歯科医師が認知機能の衰退に対する最初の防衛線となり得ることを意味しています。ただし、その可能性をもっと多くの歯科医師が認識すればという条件付きとなります。
アメリカ疾病予防管理センターによれば、30歳以上の大人の約半数が歯周病を持ち、65歳以上の人の70%が歯周病を持っています。
最近の研究では、口腔細菌「ポルフィロモナス・ジンジバリス(以降、P.ジンジバリス)」が脳に到達し、神経炎症を引き起こし、これがアルツハイマー病に寄与することが明らかになっています。
「P.ジンジバリス」という細菌は「ジンジパイン」という毒性を持つ酵素を作り出し、脳で大切な働きをする「タウ」タンパク質にダメージを与えます。アルツハイマー病になると、このタウタンパク質が互いにくっついて通行の邪魔をし、脳の細胞間の信号伝達が妨げられます。
アルツハイマー病の人の脳の変化は、このタウタンパク質の他にも「ベータアミロイド」という別のタンパク質なども関係し、こちらも脳細胞の間に塊を作り、脳の細胞同士のコミュニケーションを困難にしていると考えられています。
ジンジパイン阻害剤
「P.ジンジバリスによって誘発される神経炎症は、AD(アルツハイマー病)の病態形成における要因としてますます認識されてきた」と、ノルウェーのオスロ大学口腔生物学部の微生物学者で歯科医師でもあるインガール・オルセン博士が2021年に「Frontiers of Neuroscience」で発表したレビューに書かれています。
オルセン博士は、この神経炎症がアルツハイマー病の病態形成にどのように寄与しているかを深く掘り下げるために、以前の研究を調査しました。彼は、P.ジンジバリスとジンジパインがアルツハイマー病患者の脳で検出され、P.ジンジバリスのDNAが患者の脳と脳脊髄液で見つかったと述べています。また、大きな病原性分子であるP.ジンジバリスのリポ多糖も、アルツハイマー病患者の脳で検出されました。
見過ごされた警告
アルツハイマーとP.ジンジバリスとの関連性は確立されている可能性があります。しかし、それは依然として一部の専門家によって見過ごされています。
一例として、著名な医学雑誌「ザ・ランセット」の国際ディメンチア予防、介入、およびケア委員会が挙げられます。このランセット委員会は数年ごとにアルツハイマーについての重要な洞察について報告を発表しており、その最新の報告は、査読オープンアクセスジャーナル「Science Advances」で公開された研究から6か月後の2020年に出版されました。
機能性歯科医のマーク・ブーヘンネ博士は、その報告書が歯周病との関連について一切触れていないことに失望しました。
「歯周病をリスク要因として含めていないことには驚いた。私にとって、それは第一の要素であるべきだ」とブーヘンネ博士は「The Epoch Times」に語りました。
歯周病は容易に見ることができ、アルツハイマーとの間に既に因果関係が確立されているため、一部の専門家は歯科医師がこの退行性脳疾患との闘いでより重要な役割を果たすべきだと主張しています。
委員会の調査結果
ランセット委員会は2017年に初期の調査結果を公表し、教育水準の低さ、高血圧、聴覚障害、喫煙、肥満、うつ病、運動不足、糖尿病、社会的接触の少なさが認知症のリスクと関連する要因であることを示し、その3年後には「新しく、確信的な証拠」に基づいて、過度のアルコール摂取、外傷性脳損傷、大気汚染を追加しました。
最新の報告書は2020年7月に「ザ・ランセット」に掲載され、「これら12の修正可能なリスク要因が全世界の認知症の約40%を占めており、理論的には予防または遅らせることができる」と結論づけられました。
アルツハイマー病は記憶がなくなる病気の一つで、早めの生活習慣の改善で進行を遅らせることができると、研究で示されています。新たな研究によれば、アルツハイマー病はさらに臨床前段階で腸内微生物叢を通じてスクリーニングすることが可能であることが示されています。
The Epoch Timesは、委員会の責任者であるギル・リビングストン氏に、歯周病が「ザ・ランセット」のリストから省略された理由を尋ねるために連絡を取りました。彼女は歯科保健は次回の更新(2024年6月予定)で考慮するテーマであると述べました。
リビングストン氏は「それは次のランセット委員会で議論されており、そのため私は詳しくは言えない」「しかし、口腔健康が悪い人々が教育を受けている可能性が低いか、またはより裕福で、健康である可能性が高いかどうかを尋ねると良いかもしれない」とメールで述べています。
(続く)
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