焦点:政権浮揚へ子育て強調、解散にらみ歳出圧力も 遠退く財政目標
[東京 13日 ロイター] – 岸田文雄首相は近く決定する「異次元の少子化対策」で看板政策をアピールし、政権求心力を維持したい考えだ。もっとも効果を疑問視する声も残り、月内か秋にも想定される衆院解散・総選挙をにらみ、子育て以外の歳出積み増しを求める声は鎮まりそうにない。首相が早期解散に打って出れば、2025年度の財政目標達成を危ぶむ声も広がりそうだ。
<出生率1.26の衝撃>
新戦略は21年10月の政権発足以降、「子ども予算倍増」を狙う岸田内閣の懸案の1つだった。きょう官邸で記者会見を開いて発表する運びだ。
少子化が政策課題として意識されるきっかけとなった1990年の「1.57ショック」からは30年以上が経つ。93年の出生数が118万人と、戦後直後の268万人の半分以下となった危機感から、94年に省庁横断的な「エンゼルプラン」を策定。政権交代を経て児童手当の拡充を図るなどしてきたが、2022年の合計特殊出生率は1.26と当時をさらに下回り、過去最低の水準を脱していない。
「子ども予算の倍増方針は昨年からの懸案事項。肝入りの政策を首相自ら会見して説明し、国民的理解を得たいのだろう」と、政府関係者の1人は語る。
政府原案を提示した1日以降の与党協議を経て、最終案では、育児期の柔軟な働き方を推進するため「選択的週休3日制度の普及」を追記。ロイターが確認した案文によると、柱の1つと位置付ける児童手当の拡充では、支給期間をより明確にした。
26年度までの3年間で予算を3兆5000億円程度追加し、児童手当の拡充や出産育児一時金の引き上げなどを柱に、子育て世帯への支援を鮮明にすることで「家族介護や不妊治療などの事情を抱えていても、仕事と両立できる環境を整えられるようになる」と、自民関係者は口を揃える。
<浮揚効果には疑問の声>
もっとも看板政策をアピールすることで政権浮揚を図れるかは見通せない。今国会会期末も含め、与野党の間で早期解散観測が取りざたされる中、首相と距離を置く与党幹部からは「少子化対策に伴う政権浮揚効果は期待できない」との声が漏れる。
児童手当の拡充と引き換えに、高校生の扶養控除を廃止する案も浮上していることから「子育て世代にはそれほど刺さらないのではないか。むしろ問題なのは結婚ができない低所得者層。実態として少子化対策として機能するとは思えない」(大和証券の末広徹チーフエコノミスト)との声もある。
コロナ禍後は、出生以前に婚姻件数そのものが減少に転じ、内閣府によると2020年の婚姻件数は52.6万件、21年は51.4万件と戦後最も少ない。逆に、離婚件数は20年に19.3万件、21年に18.8万件と、第1次ベビーブーム世代が20代前半を迎えた1970年の約10万件(当時の婚姻件数は約100万件)の倍近い。
新たに決定する少子化対策を巡り、専門家の間では「家庭当たりの子どもの人数を増やすことに主眼を置いた対応とみられるが、婚姻件数の減少を抑えることを目指す方が高い効果を得られる」(SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミスト)との見方がある。
<骨太原案に相次ぐ不満>
政府は、きょう決定する少子化対策を反映させるかたちで、次年度以降の歳出を裏付ける経済財政運営の指針(骨太方針)を16日に取りまとめる段取りを描くが、決定に先立つ与党協議では、早期の解散判断をにらみ一層の歳出を求める声が強い。
8日の自民政調全体会議では、新型コロナ対策で膨らんだ歳出を「平時に戻す」と記した骨太原案に不満が相次ぎ、防衛力強化や子育て以外の予算拡充を求める声が目立った。
電気代をはじめとする物価高対応では「6月使用分から値上げが実施される電気料金の負担軽減策が9月に切れる。状況に応じた追加策が必要になる」(野党幹部)との声もくすぶる。総選挙での争点化を避ける狙いで、野放図な歳出を繰り返す懸念は拭えない。
市場では「税収は増えているが、毎年のように補正予算を編成している状況では25年度にPB(プライマリーバランス)が黒字化する姿は見通せない」(第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミスト)との見方が出ている。
(山口貴也、杉山健太郎 編集:橋本浩)