関節を守り、痛みを和らげる 柔軟な体がもたらす4つの効果
30歳での引退が珍しくないスポーツ界で、「冬季五輪の伝説」と呼ばれる日本のスキージャンパー葛西紀明さんは41歳でソチ冬季五輪の銀メダルを獲得しました。葛西紀明さんは著書の中で、特に40歳以上の人は、ストレッチで体の柔軟性を高めることが最優先だと語っています。
脊椎力学の専門家である鄭雲龍氏によると、柔軟性が低い人は、肩や首の痛み、腰痛、胸の痛み、足底筋膜炎などの筋膜の痛みに悩まされやすいといいます。正常な柔軟性を持つことは、関節、筋膜、心身に4つの大きなメリットをもたらします。
1.関節の磨耗を抑え、関節を健康にする。
関節の不快感や関節炎は、柔軟性の低さに最も直接的に関係しています。
関節炎は体重や膝や腰などの関節にかかる負担が原因で起こると考えられていました。 特に、高齢になると運動量が減る人が多いため、関節の動きが悪くなり、動くことで関節の軟骨にかかる負担が大きくなります。
ストレッチをして柔軟性を高めることで、関節の可動域を良好に保ち、運動時に軟骨を圧迫しないため、関節の消耗を抑え、健康的な関節を作ることができます。
2.筋膜をなめらかにし、筋膜性疼痛を予防する。
鄭雲龍氏によると、筋膜の線維化や緻密化により、筋膜が滑って痛みが出ることがあると言います。
通常であれば、筋膜の層の間にあるヒアルロン酸は水を含んだ小さな分子のはずですが、座りっぱなしでいると、固くなり、筋膜の層の間に留まって痛みを感じるようになるそうです。
鄭雲龍氏によると、適切なストレッチは身体の筋膜を滑らかにし、動作時の締め付けや強張りを防ぐことができるそうです。
3.心と体を落ち着かせ、血圧を下げる。
ヨガやバダンジンなどの中国式健康法にはストレッチが含まれており、副交感神経にリラックス信号が送られ、体が真にリラックスできます。ヨガにも同様な効果があります。
また、静的ストレッチには、血圧や心拍数を下げ、末梢循環を改善する生理的な効果もあります。
日本のメタアナリシス(複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること)では、ストレッチは中高年の動脈硬化、心拍数、拡張期血圧を低下させ、内皮機能を改善することが分かっています。
4.痛みの軽減
圧痛が弱い人は通常、弾力性が低く、プロプリオセプション(身体のパーツがどこにあるのかを感じ取る感覚)が弱いため、間接的に痛みの信号に対する感度が高くなります。 体が硬い人は、柔軟性が正常な人に比べて、慢性的な痛みを感じやすいと言われています。
鄭雲龍氏によると、ヨガも中国の健康法も、背中をリラックスさせ、痛みを和らげる効果は鎮痛剤と同じだといいます。そのため、欧米では腰痛を解消するためにストレッチが盛んに行われています。
ストレッチは「天然の鎮痛剤」である
ストレッチが痛みを和らげ、鎮痛剤への依存を減らすことを証明する多くの研究が行われています。アメリカの研究では、慢性筋膜性疼痛に悩む患者さんにストレッチを1年間行ったところ、84.4%の患者さんが鎮痛薬のオピオイドの総用量を減らし、34.4%がオピオイドを完全に断つ事が分かりました。
また、筋膜性疼痛とは関係ありませんが、ストレッチ体操が鎮痛剤と同等の効果があることを実証した研究もあります。研究者たちは、生理痛のある女子学生を、ストレッチをするグループと鎮痛剤を飲むグループに分けました。その結果、ストレッチは一次性月経痛に対して鎮痛剤と同等の効果があり、ストレッチの月経痛緩和効果は時間の経過とともに増加することが明らかになりました。
猫背予防や肩・首の痛みを和らげる、直角に伸びる
全身ストレッチ
柔軟性の低下は、関節や筋膜の健康を損なうだけでなく、バランス感覚や見た目の老化にもつながります。
しかし、鄭雲龍氏は、柔軟性が高ければいいというわけではないと言っています。関節を安定させる強い筋肉がないのに、体が柔軟すぎると、腰痛を引き起こすそうです。そのため、一般の人は簡単なストレッチ程度にとどめておきましょう。
鄭雲龍氏は「直角全身ストレッチ」を紹介しています。動きはシンプルですが、2つの大きな効果があります。
・猫背を防ぎ、猫背による肩や首の痛みを和らげます。
・肩甲骨が押され、背中が開きます。
「全身直角ストレッチ」のやり方
1.壁、テーブルの端、または安定した椅子の背もたれを持つ。
2.前傾姿勢で腰を90度に曲げながら、腕が伸び切るところまでゆっくりと後方に歩き、30秒から1分間キープする。
深呼吸をしながら、後ろから誰かに引っ張られるのをイメージして、後ろへ伸ばす。
3.ゆっくりと深呼吸をし、背中を丸めたまま大きく一歩踏み出し、徐々に戻る。
4.元に戻る。
翻訳:香原咲
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