FDAが警告! 抗うつ剤は自殺のリスクを高める可能性がある
では、このような大規模な集団で抗うつ剤を使用すると、リスクが生じる可能性があるのでしょうか?
オープンサイエンスの理念のもとに創刊された雑誌「Frontiers in Psychiatry(精神医学のフロンティア)」に掲載された研究では、2012年以降のオーストラリアにおける抗うつ薬の処方率と自殺率を調査し、両数値に一貫した上昇傾向があることを明らかにしました。
FDAは2004年に、抗うつ薬を服用している若者は、自殺念慮や自殺行動などの自殺リスクが増加すると警告しました[4]。
当時、FDAはすべてのクラスの抗うつ剤に「ブラックボックス警告」というラベルを使用していました。これは、FDAが承認済みの医薬品に対して出せる最大の警告で、医薬品のパッケージで確認することができます。2005年に施行され、2006年には警告年齢が25歳に延長されました。
この警告について、医療業界は一時期、真剣に受け止めましたが、精神的問題解決のため多くの人に化学物質の使用を奨励する事を止めることはできませんでした。その結果、抗うつ剤の使用は一時的に減少しただけで、2006年以降再び増加しました。
さらに抗うつ剤の市場は、2020年までに150億米ドルに達すると予想されています。
「British Medical Journal」に掲載された研究では、自殺未遂のリスクが服用前より服用28日間に著しく高くなるという見解が出ています。さらに、薬を止めた後の短期間での症状のリバウンドが大きい場合もあるため、離脱期にも自殺の傾向が高まります。[5]
重度のうつ病を患い、緊急に助けを必要としている人は、薬が効くまでに時間がかかり、その間に症状がさらに悪化するかもしれないというリスクに直面した時、どうすれば良いのでしょうか?これは、抗うつ剤の普及の大きな問題点の一つです。
うつ病が良くなるのは、抗うつ剤のおかげではない?
もっと重大な問題は、私たちのうつ病に対する理解が最初から間違っていたのではないかということです。
また、それと関連する質問も多くあります。カナダとバージニア大学の専門家による、ある研究が、『Neuroscience & Biobehavioral Reviews』誌に発表されました[6]。
この論文では、セロトニンに関連する多くの研究を集め、セロトニン濃度が人の気分の変化を決定するという考え方は誤りであることを明らかにしました。
この研究ではまず、セロトニン濃度と精神状態の関連は単一ではないことを明らかにしています。うつ病の場合、セロトニン濃度は必ずしも低下せず、多くの場合、上昇します。これは、脳内のセロトニンの変化を測定することが難しく、検出するための技術も限られているためです。
しかも、セロトニンは単一の「幸福因子」ではありません。体内の多くの器官系のエネルギー調節と密接に関係する複雑なシステムです。
セロトニンは脳だけでなく、全身の多くの臓器に作用し、多くの機能の働きに影響を及ぼしています。 また、セロトニンは、糖の代謝や各臓器でのエネルギーの分配・吸収、免疫系、成長、生殖機能に直接影響を与えます。抗うつ薬のSSRIは、実は体内の多くのシステムのエネルギーバランスを崩し、多くの問題を引き起こすことがあります。
また、一定期間薬を服用した人の中には、うつ状態が軽減された人もいますが、これは薬によるものではなく、セロトニンのバランスが崩れ、エネルギーバランスが崩れたことによる代償的な自己防衛のための調整である可能性が研究から示唆されました。
これは、1960年代の抗うつ剤のメカニズムを完全に覆すものでした。
残念ながら、かなり難解で学術的な論文であったため、メディアでは大きく報道されませんでした。
過去数十年の間に脳科学や神経科学の研究がさらに発展するにつれ、セロトニンの脳への作用はかつて考えられていたほど単純ではなく、抗うつ薬が開発された時点ではこれらの概念は知られていなかったことが次々と明らかにされています。
例えば、海馬のセロトニンレベルの問題は、記憶喪失や神経栄養因子シグナルの低下を引き起こし、視床下部のセロトニンレベルの問題は、成長、生殖、運動などに影響を与える可能性があるという事などです。
このように、脳は複雑なシステムであり、一つの物質が脳の異なる部位に及ぼす影響も異なっています。セロトニンなどの物質のバランスを直接的に阻害する薬物を使用すると、さらに大きな体内の混乱を引き起こす可能性があります。
(つづく)
(翻訳・香原 咲)
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