腸内細菌叢の状態は通常、食事と密接に関連していると考えられています。
運動は「腸内細菌叢を改善する」
ところが、専門家によると、腸内細菌叢は運動にも関係しており、「有酸素運動を適切に行うことで、改善効果が高まる」と言われています。
研究者は、普段から座りっぱなしで仕事をしている、ほとんど運動しない人を対象に、週3回、30分~60分程の有酸素運動を6週間行ってもらいました。その後、再び運動しない生活スタイルに戻し、同様に6週間の経過観察をしました。
その結果、実験参加者の腸内細菌叢は、運動開始から6週間後に明らかに変化しました。
多くの被験者の腸内細菌叢は、より多くの短鎖脂肪酸の産生に寄与するなど、好ましい状態に変わっていたのです。短鎖脂肪酸は、腸内環境を健全に保つとともに、免疫機能の調整、発がん予防、肥満の予防、糖尿病の予防など複数の利点をもつ物質です。
ところが、被験者が元々の運動をしない生活に戻ると、それまで活発になっていた腸内細菌叢も低調になり、運動開始前の状態に戻ったのです。
「血流が良くなる」と腸も元気になる
これについて、プロバイオティクスの専門家で国立陽明交通大学教授の蔡英傑氏から、次のような説明がありました。
「腸壁表面の上皮細胞は内分泌系、免疫系に関係します。上皮細胞のすぐ下には循環系がありますので、血液の循環を促す有酸素運動を行うと、血流が促進されて酸素が十分に供給されます。それにより、腸内の内分泌系や免疫系の分泌物が活性化されるのです」
蔡英傑氏はまた、腸内細菌叢は腸内環境の変化に非常に敏感であるため、上述の一連の変化を腸内細菌が感知することで、すぐに反応が起きると言います。
ただ、運動によるこれらの環境変化が、具体的に腸内細菌叢にどのように影響するかは、科学界ではまだ解明されていません。
大腸がん予防にも有効
運動がもたらす腸内細菌叢への影響について、ある専門誌に掲載された記事は、「適度な有酸素運動によって炎症が減少するとともに、腸内微生物の多様性および代謝に対する望ましい影響が産生される」と表明しています。
そのような「望ましい影響」の一つとして、運動は腸内の内分泌系を刺激することで、消化管疾患および大腸がんを予防する物質(例えば、先述の短鎖脂肪酸など)を産生することが挙げられます。
ただし、全ての運動が腸内細菌叢に良いわけではありません。
日常よく行われる運動には、大きく分けて、ウォーキングやジョギングなど心肺機能を強化する有酸素運動と、ジムで筋肉に負荷をかけて鍛えるような運動の2種類があります。研究によると、有酸素運動のほうが、腸内細菌叢を改善する効果が明らかであると言います。
ところが、有酸素運動でも非常にハードな「高強度」の種目は、腸内細菌叢に逆効果をもたらすとして注意が促されています。
ハードな運動は逆効果
例えば、水泳、自転車、長距離走はいずれも有酸素運動ですが、この3種目をハイレベルで統合して行う競技が「鉄人レース」と呼ばれるトライアスロンです。
蔡英傑氏によると、「たとえ有酸素運動でも、トライアスロンのような高強度の運動を長時間行うと、腸内の血流が減少し、全身に炎症を起こして腸内細菌叢を傷つける」と言います。
確かに、一流のアスリートが出場する競技会は、一般の愛好者が楽しむスポーツとは全く異なる世界であり、そこには競技に集中する選手の張りつめたような緊張感があります。
これに対して、「喜びの気持ち」で行う軽い運動は、ストレスを解消できる上、腸内の調整にも非常に良いということなのです。
さて、ここまで「適度な有酸素運動は腸内細菌叢に良い」とお伝えしてきましたが、やはり食事の改善によるアプローチも、ぜひ続けてください。
良質のヨーグルトを食べてプロバイオティクスを補充し、野菜や果物をたくさん食べて食物繊維を補うことです。
腸が元気ならば、あなたの体すべてが健康だということです。
(翻訳編集・鳥飼聡)
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