漢方医学からの提言「あなたを自殺させないために」(1)

著名人が、うつ病を患っているというニュースが、ときおり流れます。
特に「よく知られた芸能人が心の病で自殺した」という衝撃的なニュースが続くと、心の健康に関するさまざまなコメントが、テレビなどで多く流されます。

肝臓に「気が詰まった状態」が危険

しかし、うつ病とは本当に「心の病」なのでしょうか。

うつ病や抑うつ症状について、中国伝統の漢方医学では、西洋医学とは全く異なる診方をします。漢方におけるうつ病は、心の病ではなく、五臓のひとつである「肝臓」に原因があると診るのです。

台南市うつ病協会理事長で、承恩漢方医院院長の朱恩立氏は「うつ病患者は肝臓の気が詰まっているのです」と言います。

漢方医学でいう肝臓は、単に肝臓という単体の臓器を指すのではなく、肝臓を中心とする一つの系統の概念のことです。肝臓の系統がスムーズに疎通することで良好な気(エネルギー)の流れを保つことができ、それが人に穏やかな精神状態を維持させます。

ところが、その肝臓に「詰まり」があると、そこに肝気が鬱積して気分が非常に不快となり、やがて全身の健康に悪影響を与えるのです。

この状態を、漢方では「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と呼んでいます。
西洋医学ではこれを「精神的ストレス」と言い、「心の病」につながる状態と認識しています。ただし西洋医学では、現代でも、うつ病の原因ははっきり分かっていません。

一方、漢方医学は、その原因の所在を「肝臓」と明確に見定めて、弱った肝臓の養生に焦点をあてた具体的な治療方法を組み立てていくのです。

 

「不規則な食事」と「夜更かし」は禁物

肝気鬱結が、すぐにうつ病になることはありません。

ただ、典型的なケースとしては、夜に眠れない状態が現れ、その睡眠障害が何日も続くと次第に抑うつ症状が進みます。それがさらに重症化したものが、うつ病と呼ばれる病です。

朱恩立氏は、うつ病の発端は「良くない生活習慣」にあると指摘して、次のように警告します。
「現代人のうつ病の要因としてよく見られるのは、毎日の食事が不規則になっていることです。その上、夜更かしをして、わざわざ自分から睡眠障害を招いています。このため肝気鬱結は、ますますひどくなります。精神の不安定は、そのような良くない生活習慣の結果なのです」

 

「お酒で紛らわす」は逆効果

気分が憂鬱になると、お酒を飲んで紛らわせようとする人もいますが、これは全く逆効果。このような状況での飲酒は、必ず「愁上加愁(愁いに愁いを重ねる)」ことになります。

実際、お酒を飲みすぎると腎気(腎臓の気)が抜けてしまいます。
飲酒によって腎気が不足すると、腎臓に密接に関係する肝臓も弱りますので、どんどん肝気鬱結がひどくなります。つまり、うつ症状が飲酒によって進んでしまうのです。

また、気分がすぐれず眠れない時、お酒を少量飲むと入眠に役立つと考えられがちですが、これは一時的にしか効かない方法ですので、習慣化すべきではありません。

過度の飲酒は腎臓を傷つけ、肝臓に負担をかけるため、うつ病を悪化させます。(onyxprj / PIXTA)

 

漢方医学によるうつ病の治療は、「腎臓を補い、肝臓を養う」ことを目指します。まさに腎臓の機能を補って、弱った肝臓の状態を整えることから始めます。

朱恩立氏によると、うつ病は第一義的に肝臓の問題ですが、腎臓は肝臓のエネルギー源であるため、「肝気鬱結になった場合は、腎臓も必ず弱っている」と言います。

そこで、まず腎臓の力を補ってこそ、そのエネルギーが肝臓へ通じます。
肝臓が徐々にほぐれてくれば、「心の病」と呼ばれるうつ病も氷解していくわけです。

(次稿へ続く)
(翻訳編集・鳥飼聡)

 

蘇冠米