『二十日鼠と人間』 夢に捨てられた労働者たち(中)
最下層の生活 取るに足らない小さな夢
ジョージとレニーがサリーナスの湖畔で休んでいる時、2人は
「近い将来、十分なお金を稼いだら小さな土地を購入し、自分たちの農場を開き、ウサギを飼う!」というレニーの夢に浸りました。
レニーはウサギをなでるのが大好きで、ウサギの柔らかくてふわふわした毛が自分を幸せにしてくれると感じています。
2人は新たな農場で働くことになり、ジョージは、「決してトラブルを起こすな」と再三再四レニーに注意しました。
農場主の息子のカーリーはよく労働者たちに手を上げていました。彼はレニーが鈍そうに見えたので、腕相撲を強要しました。しかしレニーは想像以上に力が強く、カーリーは怪我をしてしまいました。レニーが追い出されることを恐れたジョージは人望の高い労働者、キャンディーに助けを求め、何とかこのトラブルを収めました。
農場内の労働者たちは機械のように仕事をし、毎日を過ごしていたため、夢を持っているジョージとレニーを羨ましく思い、彼らもよく一緒にレニーたちの夢に浸っていました。
いつか自分たちも農場を開けたら、たとえお金持ちになれなくても十分幸せだと誰もが思っていたのです。
社会の最下層に生き、毎日辛い仕事をしているこの労働者たちの最大の夢は、このような非常に小さな夢でした。
再び大きなトラブル
カーリーの新妻は若くてきれいでしたが、現状に満足していませんでした。彼女は夫と仲があまりよくなく、労働者たちと話すことが好きで、よく仕事場に来ていました。
レニーはトラブルを起こすことを恐れて、いつも彼女を遠ざけていましたが、カーリーの妻はレニーを気に入り、良く話しかけてきました。ある日、「どうしてこんなにウサギが好きなの?」とレニーに尋ねると、レニーはウサギの毛、特に長い毛が生えたウサギをなでるのが好きだと答えました。
カーリーの妻は自分も柔らかいものが好きだと言い、自分の髪の毛が非常に柔らかくサラサラしていると自慢し、レニーに触らせました。
すると、レニーは自分の手をコントロールできず、何度も何度もカーリーの妻の髪を撫で返しました。言っても放してくれないレニーに怯えたカーリーの妻は怖くなり、声を上げました。また誤解されてトラブルになることを恐れたレニーは彼女の口を塞ぎました。しかし、力を入れすぎたため、カーリーの妻を殺してしまったのです。
やってはいけないことをやってしまったと気付いたレニーはサリーナスの湖畔の森の中へと逃げていきました。妻が亡くなったことを知ったカーリーは銃を取り出し、人を連れてレニーの後を追いました。
ジョージはレニーの居場所を知っていたので、人望のある労働者のキャンディーの銃をもって、秘かに森の中へと向かいました。落ち込んでいるレニーを見たジョージはいつものようにレニーを叱るのではなく、かえって、「俺たちのような人間には何もないのさ。夢や希望を持った途端、全て失うのだ。けれど、俺たちはずっと一緒だ」と言い、レニーに将来の夢について話させました。
自分の素晴らしい夢に浸ったレニーは、徐々に近づいてくる大勢の人の足音と声に気づきませんでした。しかし、ジョージはこれに気づき、「きっと自分たちの農場を持てるさ。湖の向かい側に建てよう」と言いました。レニーが楽しそうに湖の向かい側を眺めている時、ジョージは後ろから震えた手で銃を持ち上げ、銃口をレニーの後頭部に向けました。
そして、心を決め、ついに引き金を引いたのです。大きな音と共に、レニーはその場に倒れ、二度と目を覚ますことはありませんでした。
(つづく)
(翻訳編集・天野秀)