異次元に迷い込み、困窮の地と楽園を旅する (上)
清王朝の時、康城には安若素という秀才がいました。彼は非常に才能があったため、若い頃から名が通っていました。彼は率直な性格で、しかも物知りだったので、彼が話すたびに人々は思わずその話に引きつけられます。彼は自らの才能にうぬぼれ、頑固で人の話を聞かない部分もありました。
当時、安若素の父は浙江省天台県の治安判事の職を授けられ、家族を連れて行くことができました。安若素は父親と一緒に天台に到着した時、わくわくしましたが、しばらくすると官僚たちのやり取りや政治の混乱、そして、多くの危険や妨害を目の当たりにして、「官界が苦界なら、私がここにいても仕方なかろう」とため息をつきました。安若素は詩人・陶淵明の『帰去来の辞』という詩を思い出し、ここを去ろうという思いが芽生えました。
父親が退職した後、安若素も田舎に帰りました。彼が官吏をしていた時、清廉な役人で、給料以外の金には手を付けなかったため、生活は非常に貧しいものでした。安若素は庶務を担当する官吏(最下級の役人)である「書吏」となり、北の燕趙(北京)から南の貴州と雲南まで、あちこちを転々としました。結局、彼は奔走することに疲れ、落ちぶれて、失意のどん底で意気消沈し、故郷に戻ることに決めました
帰省の道中、安若素は海外から帰国したという人に出会い、エキゾチックな話を聞いて、非常にうらやましくなりました。そこで安若素は旅費をため、船で海外へ行きました。しかし、海に出たとき、嵐に遭い、船もばらばらに砕け散り、多くの人が海に投げ出されました。安若素も海に落ちましたが、無意識に船の破片につかまり、沈みませんでした。しかし、嵐はどんどん激しくなり安若素は巻き込まれて何万キロも飛ばされました。
突然、安若素は地面に落ちました。彼は疲れ果て、立ち上がれず、そのまま気を失いました。ふと、誰かが自分の背中をたたいているのを感じ、「海外の旅は楽しかったかい?」と声をかけられ、安若素は目を覚ましました。
目を開けてみると道士がいました。安若素は驚いて、口を開けましたが、声が出ませんでした。すると道士はある果物を差し出し、果物を食べた安若素は、体に再び力がみなぎったのを感じ、声も出るようになったので、道士の名前を尋ねました。すると道士は「わしは仙人じゃ」と答えました。
安若素は全く信じませんでした。安若素の頑固さにため息をついた道士は安若素を連れて宙に浮かび、風に乗って飛んでいきました。地面が見えてくると、道士はそこへ着陸し、「ここは困窮の地じゃ」と言いました。驚いた安若素を見て、彼が何を考えているのかを見通した道士は「苦を嘗めずに楽ばかりを享受し続けられる世界などどこにある?」と言いました。
安若素は何か言おうと口を開きました。しかしその前に、道士は姿を消しました。安若素は仕方なく、前へと進んでいくしかありませんでした。安若素はすっかり落ち込み、どうしようかと思い歩いていたら、道の向こうに町が見えました。
安若素は「悩みの町」と書かれた町の入り口の中に入った瞬間、空が黒い霧に覆われ、どんよりした空気が漂い、中を見ると誰もが苦しい表情をしていました。しかしここに長く滞在していると、安若素もここの生活に慣れていきました。
(翻訳・郡山雨来)