日本の皆様、こんにちは。私は台湾の栄養士、蘇湘雯です。
現代は、成人の2人に1人が、何らかのがんに罹患すると言われる時代です。
そこで、これからお話しする内容は、例えば糖尿病患者の「制限的な食事療法」とは全く異なる考えに基づくものとお考えください。
「カロリー摂取」が第一
がん治療中の患者は、第一に、エネルギー源となる十分なカロリーを摂取しなければなりません。これは食事の量と内容の両面において求められる条件です。次に、良質なタンパク質を十分に摂ります。
なぜ、このようにするのでしょうか。
ご存じのように、私たちが毎日じっとしていても、呼吸や消化など日常の身体機能を維持するだけで一定のカロリーを消費します。これがいわゆる「基礎代謝」です。
ところが現在、在宅でがん治療中の人は、総じてタンパク質は摂れていますが、摂取カロリーは非常に不足している傾向があるのです。
その理由の一つとして、自身を「がん治療中の病人」と思い込んでしまうことにより、「健康な頃に比べて活動量が減ったのだから、肥満を避けるため、多く食べる必要はない」と結論づけてしまうことが考えられます。
タンパク質を「前線へ送る」
がん治療中にカロリーが不足すると、どういうことになるのでしょうか。
食べた食物の栄養(タンパク質、炭水化物、脂肪)は、まず毎日の基礎代謝を維持するため優先的に使われます。つまり、タンパク質もふくめて、これらの栄養は基礎代謝を維持する原動力(カロリー)として先に消費されるのです。
そこで余剰分となったタンパク質が、次にようやく「がんとの闘い」に回されます。
ところが体の各処は、すでに病のために相当痛んでおり、「大修復」を必要としています。
脱毛の回復、手術後の傷の治癒、がん細胞に対抗するため白血球レベルを上げるなどの大事業は、これこそ主役となるタンパク質が不足していては不可能なことなのです。
そこで、がん治療中の患者は、できるだけ多くのタンパク質を「がん闘病の最前線」へ回すようにしなければなりません。
そのために、毎日の食事の第一条件は「カロリー需要を満たす」ことであり、そうしてこそタンパク質が体内で有効に利用されるとともに、適正な体重が維持されるのです。
「お菓子」を食べてもいいですよ
一般的な状況下であれば、がん治療中の食事内容は、一般の人と大きな違いはありません。
ご参考として、台湾の衛生福利部国民健康署が推奨する「我的餐盤(マイプレート)」もお役に立つと思います。そのなかにある「6種類の食物」、つまり全粒雑穀類、野菜、豆魚卵肉類、乳製品、果物、ナッツや種子類を、毎日の食事にバランス良く取り入れます。
さて、がん治療中の食事について、通常の3食では不足するカロリー分は「お菓子で補う」という方法も取れます。
食事の量に変化がないか、よく観察してみましょう。毎回の食事のなかで、食べ切れなかったものはありませんか。
例えば、タンパク質のおかずが残っていた場合は、午後のおやつの時間に「茶蛋(お茶で煮た卵)」を1個食べたり、飲み物にプロテインパウダーを加えたりします。野菜や果物を食べきれなかったら、午後に野菜ジュースを一杯飲むと良いですね。
そして、摂取カロリーが不足している場合は、スポンジケーキやプリンなど、甘味があって食べやすい「お菓子」を適量食べてもいいのです。
がん治療中には、抗がん剤の投与が行われる場合があります。
その時、患者は吐き気や嘔吐、味覚の変化が起こりやすく、一時的とはいえ食事が非常に困難になることがあります。そのような特殊な状況であれば「食べやすいものを何でも試してみる」という意味で、通常は推奨しない「甘いお菓子」も許容されるわけです。
がん患者向けに作られた栄養補助食品は多数ありますが、それらは必ずしも味が良いわけではないので、食事そのものが苦痛になってしまうこともあります。
言うまでもなく「食」は健康の基本です。それは本来、栄養摂取のためだけでなく、楽しく、心ゆたかな時間として過ごす人生の一部であるはずです。
がん治療中の食事であっても、それは同様でありたいものです。
(翻訳編集・鳥飼聡)
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