P3およびP4の実験室は、危険度の高い生物実験を行う施設です。そこには最高レベルのセキュリティが要求されます(cassis / PIXTA)

世界に増える「危険なウイルス実験室」とくに中国で急増中

台湾の中央研究院で先日、ある女性研究補助員がP3実験室で新型コロナウイルス病原体に接触し、デルタ変異株に感染しました。これにより、それまで35日間続いた台湾の「確定診断者0人」の記録がストップしました。

P3実験室およびP4実験室は、いずれも危険度の高い生物実験を行う場所です。

米国のウイルス学の専門家で、米陸軍研究所のウイルス学科実験室主任も歴任した林暁旭博士は、自身の経験をふまえて、実験室運営の最も重要な問題を指摘しました。以下は、林暁旭氏へのインタビューの概要です。

「最も危険な」2種類の実験室

通常、実験室生物安全レベルは4級に分けられます。リスクは低いほうから高いほうへP1、P2、P3、P4となります。危険度はP4(レベル4)が最も高く、P3(レベル3)がそれに続きます。

危険度の分類は、実験した病原体の人体への危害の程度や、発症した場合の治療法があるか否かなどに基づいて判断されます。

P1実験室は最も一般的なタイプで、主に大腸菌のような害の少ない細菌です。

P2実験室は生物安全制御盤が多く、多くの種類の細菌、ウイルス、真菌などの試験を行うことができます。大学の実験室、病院のサンプル検査室の多くは、このP2と同等のレベルです。

P3実験室で分析研究される病原体は、ヒトに対する感染力が強く、飛沫から空気中へのウイルス伝播が可能なものです。これらのウイルスや細菌はリスクが高く、発症した場合、治療にも困難がともないます。例としては、インフルエンザウイルスH5N1型、HIVウイルス(エイズウイルス)などがあります。

P4実験室で扱われる病原体は、最も危険なものです。感染力が強く、感染後の発症が速く、病状が深刻である上、治療に有効な薬剤が現時点ではないため、感染者の致死率が高いウイルスです。例として、エボラウイルス属、ラッサウイルスなどです。

 

生物実験室の安全レベルは、P1~P4の4つのレベルに分けられます。(健康1+1/大紀元)

P3、P4検査室は危険度が高いため、研究者の安全を確保するとともに、病原体の外部への流出を完全に防止しなければなりません。

言うまでもなく、そこで従事する研究者は実験室の規範と管理マニュアルを確実に理解し、これを遵守することに加えて、高度な安全意識を持たなければならないのです。

私(林暁旭)が、だいぶ以前に、P3実験室でHIVウイルスの実験をしていたときのことです。遠心分離機を使って高濃縮のHIVウイルスを取得したところ、遠心分離機の回転が止まった後、容器のふたの外に、微量でしたがウイルスの赤色培養液が漏れ出ていたのを目視で見つけたことがあります。

ここで発見者は、ただちに「今は遠心分離機を開けられない。チューブが破裂して培養液が漏れたのではないか」と警戒心を持たなければなりません。同時に、ラボの担当者へ速やかに連絡し、ウイルス漏れの可能性があることを伝えます。

十分な防護装備を準備してから、ようやく遠心分離機を開けて次の処理をすることができます。実験室の内部を完全に消毒し、再び使用できるのは2週間後になります。

動物実験を行う施設は、さらに危険

実験に使う動物は大小さまざまで、管理が難しい動物もいます。

以前私が勤めていた研究所のなかに「」を専門に飼っているところがありました。これらの蚊は全てデング熱の病原体を投与されたもので、隔離された室内に閉じ込められ、ウイルスを伝播する経路の分析に用いられたのです。

問題は、これらの蚊は小さいので、隔離してもどこからか抜け出して研究員のいるスペースまで飛んでくる蚊がいることです。研究員は小さな電気棒を用意しておき、見つけた蚊を打つのです。

ただ、研究員の服に蚊がくっついて、別の部屋に連れて行かれることがたまにあります。研究員が防護服を完全に着用していても、いつの間にか、蚊に刺されていることもありました。まったく、油断のならない相手です。

 

初歩的ミスが重大事故を招く

冒頭に挙げた、中央研究院でのウイルス感染は、初歩的なミスが招いた過失によるものと見られます。

台湾メディアの報道によると、新型コロナウイルスに感染した女性研究員およびP 3実験室の担当者は、ネズミに噛まれた場合の対応方法から、実験室内の清掃、防護装備の取り外し方までの一連の作業のうち、SOP(標準操作手順書)に則した正確な手順を守っていなかったのです。

台湾のこのニュースは誠に遺憾で、これは施設管理上の大きな過失です。P3以上のレベルの実験室では、誤って針先で皮膚を傷つけたり、ウイルスを含む液がテーブルに滴下したりしても、必ず記録して、申し送り時に正確に伝えなければなりません。

今回の「不注意」感染は、実験室の管理や人員の教育指導に問題があったことが、要因の一つと言えるでしょう。

 

研究者が実験室で病原体に感染する事例は、過去に世界中で何度も発生しています。写真は、本文の内容とは関係ありません(Graphs / PIXTA)

2004年、中国でSARSが再び流行したのは、北京の実験室の研究員が操作ミスで感染したにもかかわらず、すぐには申告しなかったためです。この研究員はその後、他の場所に移動し、最終的にそこで集団感染を引き起こしました。

2019年、中国蘭州市のある生物薬品工場でブルセラ菌の漏えい事故が発生しました。原因は実験サンプルが完全に不活化されなかったことですが、その結果、実験室で60人以上が感染し、市内全体で少なくとも3000人以上が感染したのです。

特にリスクの高い実験室では、居眠りすることさえ危険な行為だと認識しなければなりません。

 

P4研究室の安全管理が最大の課題

現在、最も危険なP4研究室は世界に59カ所あり、悪魔の名を冠して「デビルズラボ」とも呼ばれます。

その内訳は、欧州25カ所、北米14カ所、アジア13カ所、オーストラリア4カ所、アフリカ3カ所。それらは、世界23カ国に設置されています。

 

危険度が最も高いP4研究所は、世界に59カ所あります。(健康1+1/大紀元)

広い範囲でP3、P4実験室を設立し、多くのサンプルを収集することによって、疫病の被害が拡大する前に、迅速に対応して行くことは確かに望まれる方向かも知れません。

しかし実際には、人類史のなかで、流行性ウイルスの発生を的確に把握できた事例はほとんどないのです。さらに懸念されるのは、これらP4実験室が多く建設されることで、それ自体が安全管理上の重大なリスクとなっている現状です。

つまり、危険な研究施設であるP4級ラボを安全に管理できるかどうかが、きわめて大きな課題なのです。

世界のP4実験室の多くは、米国国立衛生研究所(NIH)が出資し、米国の大学が異なる国家の安全な運用を監督しています。

しかし、59カ所のP 4実験室を設置しているこれら23カ国のうち、全世界の衛生安全指数で「安全度が高い」と評価されるのは、わずか25%です。

また「国際的な生物安全と安保監管の専門家のメンバー国」は9カ国(米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、スイス、日本、シンガポール、オーストラリア)で、23カ国中の40%に過ぎないのです。

 

P4研究所がある国のうち、世界の健康安全指数のスコアが 「高い」 と評価されるのはわずか25%です。(健康1+1/大紀元)

中国は2020年から、国内でP3、P4の実験室を急速に設立し始めました。

中国科学技術部の相里斌副部長によると、「中国はすでに認可を得ており、全国に3つのP4実験室、88のP3実験室を建設する予定だ」と言います。

「広東省だけでP3実験室を25~30カ所も建設する」とは、なんとも不可解な数字です。

50年代の「大躍進」方式で、危険なウイルス実験室を大規模に増設する必要が、一体どこにあるというのでしょうか。

その目的が不明なことも含めて、極めて懸念される状況です。

P3、P4実験室の多くが「安全性不足」

重要な点は、急激に施設を増やしても、そこに配属される研究員がすぐに専門トレーニングを受けて技術を習得し、拡張のスピードに対応できるかどうかです。

新型コロナウイルスの感染が初めて確認された武漢の場合、どうだったでしょうか。

当時、現地の実験室には中国全土から選りすぐられたウイルス専門家が集まっていましたが、それでも安全性を担保するのが、あれほど難しかったではありませんか。そのほか、ハルビンにあるP4動物実験室では、病原体の漏出が報告されています。

まもなくパンデミック3年目に突入する現在も、世界各国は新型コロナウイルスの蔓延を防止するため、懸命の努力をしています。

しかしその一方で、多くの「危険な実験室」を作っているのです。この問題の深刻さは、全世界で注目されつつありますが、まだ十分ではないと私は思うのです。

率直に言って、私は世界でこんなに多くのP3、P4実験室を設立する考え方を、喜ばしいとは思っていません。それが吉と出るか、凶と出るかはまだ全く分からない上、ただ多くの「パンドラの箱」をあちこちに置いているからです。

どこの実験室でも「大きな問題」が発生すれば、現地国に大きなリスクをもたらします。

ひいては、世界的な大災害にも、つながりかねないのです。

 

(口述・林暁旭/翻訳編集・鳥飼聡)

関連記事
白キクラゲやレンコンをはじめ、免疫力を高める10の食材を紹介。伝統医学と現代科学が推奨する抗炎症効果で、肺を潤し冬を快適に過ごす方法を提案します。
新たな研究により、男性における自閉症の発症リスク上昇には、Y染色体が関与している可能性が示されました。男性では自閉症が女性より約4倍多く見られる一因として、Y染色体が自閉症リスクを特異的に高めていることが明らかになっています。
朝食のタイミングを調整することで、2型糖尿病の血糖値管理が改善する可能性があることが新しい研究で明らかに。運動と食事のタイミングが血糖値に与える影響を探ります。
神韻芸術団2025年日本公演間近、全国42公演予定。伝統文化復興を目指す公演に観客の支持と絶賛の声が相次ぎ、チケットも記録的な売上を上げている。
食品添加物「カラギーナン」が健康に与える影響についての新しい研究結果を紹介。インスリン感受性や炎症の悪化と関連があり、摂取を控える方法も提案します。