心と体の健康は「許し」から生まれる
菊池寛の小説『恩讐の彼方に』のなかに、大分県の耶馬渓(やばけい)にある交通の難所「青の洞門」を独力で開削しようとする仏僧・了海と、それを父の仇として命を狙う実之助の逸話があります。
了海は、俗人であったとき、確かに実之助の父を殺害した犯人だったのです。しかし、「洞門を完通させるまで、この命を預けておいてほしい」と願い、実之助とともに岩盤に向かって槌を振ります。そして洞門は完成。潔く討たれる覚悟の了海を、実之助は涙を流して許し、自身が燃焼し続けてきた全ての復讐心を捨てるのです。
史実に基づく小説のなかで、実は、この仇討ち話は菊池寛の創作なのですが、日本人の意識のなかにある「許す」という行為を具象化した作品として、現代の私たちが、再評価して良いように思います。
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