北朝鮮、「自由」や「ストレス」さえ辞書にない世界=脱北者パク・ヨンミさんインタビュー(1/6)
13歳の時、母親と共に凍った川を泳ぎ、北朝鮮から中国へ脱出したパク・ヨンミさん。人身売買業者に奴隷として売られた後、モンゴルのゴビ砂漠を越えて韓国に亡命した。飢餓が蔓延し、言語や思想など全てがコントロールされた北朝鮮の国民は、自分たちが奴隷であることさえ気づいていないと話す。
金政権はなぜ意図的に国民を飢えさせるのか。同政権を裏で支え続ける中国共産党の実態は。パク・ヨンミさんが過酷な半生を振り返りながら、全体主義へと傾きつつある米国に警鐘を鳴らす。
「言葉に気をつけなさい」
パク・ヨンミさんは、強い言論統制が敷かれる共産主義体制のなか、親から口が災いをもたらすと教え込まれたという。
北朝鮮では文字通り、あなたが何かを言えば、あなただけではなく、家族の3世代から8世代までを、殺すことができます。幼い頃、私は母から、「見知らぬ人に気をつけなさい」ではなく「言葉に気をつけなさい」とよく言われました。「鳥やネズミまでが囁きを聞いていますよ」と注意されたのです。母は体の中で一番危険なのは、舌だと。それが母が娘を守るための唯一の方法だったのです。
ある意味、北朝鮮では考えることさえも、自由ではありません。「思想犯罪」が現実にあるのです。人々は自由に考える方法が、分からなくなるまで抑圧されるのです。
ヨンミさんは、母親が受けた「言葉狩り」のエピソードを語った。母親が友人に、北朝鮮の過去の指導者・金正日の死因について話した時だ。北朝鮮では、金の死因は心臓発作ではなく、人民の幸福のために過労で死んだ、と伝えらている。母親は「敵国が指導者の死因を過労ではなく、心臓発作と言っている…」と友人に話してしまった。
しかし、この友人はスパイだった。母親は小さい子供も抱えており、当局の罰を免れた。ヨンミさんは、もし「本当に心臓発作だったかもしれないね」と母が言っていれば死刑になっていた、三世代強制収容所おくりだったかもしれないと話すヨンミさん。強い監視体制の中にある北朝鮮では互いが「通報」しあっており、信頼関係を築くことは困難だ。
政権は人々の間に、不信感を抱かせるのです。北朝鮮では、「自分の背中も他人である」という言葉があります。自分の背中さえ、信用することはできません。誰も何も信用できないのです。このことは私の母にとって、教訓となりました。北朝鮮に真の友人はいません。
何百年も昔の罪を被せ続ける
米国にいるヨンミさんは、「白人の罪悪感」や「白人の特権」という言葉と、北朝鮮の連帯責任制度は似ていると指摘する。
なぜ今生まれた人が、何百年も前に起きた奴隷制について、罪悪感を持つ必要があるのでしょうか。そんなことはありません。しかし北朝鮮では、全く同じことが行われています。もし、あなたの曾祖父やその祖父が資本主義者だったら、あなたは有罪であり、血は永遠に汚れているのです。
言語の統制の厳しい北朝鮮では「友達」や「愛」という言葉がない。「同志」という言葉はあるが、それは革命のために働き、党の栄光や革命目標を共有するという意味だ。「人権」「自由」「ストレス」「うつ」でさえ学校で習うこともなく、人々はその意味を知らないという。
友達とは、お互いに助け合うことです。政権は私たちから、多くの概念を取り除きました。例えば「愛」です。私たちは愛が何なのかを知りません。誰かが互いに愛を語っているのを、見たことがありません。人々が知ることを許されている唯一の愛は、親愛なる指導者への愛です。
彼らはあなたの思考をコントロールしています。ジョージ・オーウェルの小説に出てくる「ダブルスピーク」と同じです。誰が言葉を操っているのでしょうか。あなたの思考をコントロールしているのは、誰ですか。社会主義の楽園では、ストレスを感じることが許されていないので、それが何か分からないのです。これが究極のマインドコントロールの姿です。
(つづく)
(アメリカ思想リーダー「North Korean Defector Yeonmi Park on Communist Tyranny and ‘the Suicide of Western Civilization’」より)