妲己に蠱惑され国を滅ぼした紂王
古代の小説『封神演義』では、千年生きた憑き物(狐狸の精霊)が、冀州侯の娘、妲己の魂を滅ぼして身体を手に入れた事が伝えられています。後宮に入った妲己は、その美貌で紂王を思い通りに操り始め、次第に紂王は妲己に操られるまま、妲己の美しさに欲情し、政治を無視して過ごし、暴政を行うようになりました。
ある日、終南山の道教の師匠である雲中子は、宮廷に邪気が満ちているのを見て、将来は国家の大患になる恐れがあると、紂王を憐れに感じました。そこで彼は王のために妖狐を退治しようと考え、枯れた松の枝を使って木刀を作り、紂王に献上し、宮中の建物に吊るして、妖狐を退治してくださいとお願いしました。
その木刀を見た瞬間、妲己は恐れ慄きました。雲中子は、ただの木刀で妲己を制圧し、殺せるほど深い知識があったのです。しかし、紂王は、息も絶え絶えになっている妲己の様子を見て、急いで木刀を燃やすように命じました。
この憑き物は、人間の体に取り付くだけでなく、その人の魂を滅ぼし、宮廷に混乱をもたらしました。それ以来、紂王は妖狐に取り憑かれ、妖気は宮廷全体に漂い、人々は紂王に不満を抱きました。紂王は妖狐の言葉には耳を傾けましたが、賢者の助言には耳を傾けませんでした。結局、紂王は美しい王国を失ってしまいました。
『夷堅志』第16巻によると、浙江省嘉興県の判事であった陶彖には息子がおり、ある年、陶彖の息子は外である女性に出会い、彼女に夢中になってしまいました。ある日、彼は憑き物に取り憑かれてしまい、急に性格が変わり、言動も普段とは違っていました。陶彖は、何人かの霊媒師に治療を依頼しましたが、結局何の効果もありませんでした。
その頃、天竺の弁才法師である元净が用事で嘉興にやってきました。修行を積み深い造詣を得た元净は、江南の人々から尊敬されていました。彼の評判を聞いた陶彖は、元净法師に助けを求めました。
元净法師は杖を持って陶彖の家に来て、祭壇を作り、悪霊を追い出しました。 その夜、陶彖の息子は安らかに眠りました。
翌日、元净法師は結跏趺坐(けっかふざ)をして、陶彖の息子の体に取り付いている憑き物に 「お前はどこから来たんだ?」と問いかけました。この憑き物は、「私は会稽(かいけい)の東、卞山(べんざん)の南に住んでいて、家の周りの古木は多い」 と言いました。法師は色々尋ね、その憑依体を柳妖だと推測しました。陶彖の息子は笑いました。
法師は、「お前は長い間、この世のものに惑わされ、物質的なものに縛られ、邪悪な欲望に溺れ、千年もの間放浪した。お前は自分のことを解放することができないだけでなく、さらに悪魔的な興味のために非常に多くの災いを生み出し、罪のない人々を苦しめた」とそのと言いました。
元净法師は彼女に、仏典の奥義を解説することができると言いました。彼女が純粋な本性に戻るために、過去の過ちと罪を悔い改めることを決意してほしいと求めました。元净法師の話を聞いた柳妖は、大声で泣き、話すのもやめました。元净法師の修行と陶彖の敬虔を目の当たりにした柳妖は、もう世間に害を与え続けることを止め、やがて陶彖の息子の体から離れていきました。
(翻訳編集・啓凡)