イメージ写真 農作業を体験する子供 cba / PIXTA(ピクスタ)
農科学もうひとつの道 完全自然農法

9. 病気にならない子供たち~免疫力を鍛え上げる

まだ小さな子供が熱を出すと、多くの親は心配になる。医者のところに連れていき、熱を下げる薬を要求する親が多いと聞く。はるか昔、自分がまだ子育て世代のころ、近所のある小児科医は「熱をすぐに冷ます薬を出してくれる良い先生」と評判だった。それは、新聞社を辞めてフリージャーナリストとして活動を始めたとき、地域社会で直接見聞きしてきたことだ。子供の発熱に耐えらない親は、すでに私の世代から始まっており、強い解熱剤を処方する医者が良い医者だとされていた。

かつては自然のなかで、自然とのつながりを大切にして生きてきた人間は、いま、多くが自然とは切り離された都市文明のなかに生きている。子供が発熱したとき、その状態を「自然の側」から見るのか、「都市文明の側」から見るのかで、対応策はおそらく真逆の答えになるのだろう。都市文明の側から発熱を含めた「病気」を見ると、おもにそれは西洋医学の視点ということになるが、薬で症状を抑え込む方向になる。いわゆるバイキンを避け、塵や埃を避け、どこまでも無菌状態を求めていく。

イメージ写真 富士山と麓の都市 Yoshitaka / PIXTA(ピクスタ)

一方で、昔は「自分の子供には解熱剤を飲ませない」と明言する小児科医もいた。私たち夫婦は、そのアドバイスに従う側にいた。そして、それは現在の自然農法の研究にもつながっているし、子供の発熱を「自然の側」から見ることに、何ら疑いを持つこともない。そしていま、5歳の女の子を筆頭に7人の孫がいて、若い親たち(私たちの子供)は、やはり「自然の側」から子育てをしている。それも、私たちのころよりも、もっと強く自然とのつながりを大事にしているので、その効果は、「孫たちが呆れるほど病気をしない」という状況に現れているようだ。

ちなみに、5歳の孫娘も発熱は経験している。39℃代の発熱がこれまでに2~3回だったと記憶している。そして、早ければ一晩、長くても3日で回復する。しかも、熱があっても、同世代の元気な子供たちより活発に動いていたというから、「自然の側」に立って子育てすることが、やはり大切なのだと確信している。もちろん、ほかの孫たちも同じように元気に育っている。彼らは生まれてから薬を使ったことがない。

さて、いくら「自然の側」に立っていたとしても、ただそういう意識でいれば良いというものでもないだろう。おそらく孫たちの頑健な身体を支えているのは、自然農法の畑と、そこで育つ野菜なのだと思う。離乳食が始まる前から畑で寝ころび、ハイハイし、土を食べて育っている。現代科学の発展は、腸内細菌が「第二の脳」と言われるほど精密に人体をコントロールしていることを突き止めた。悪玉菌が優位になれば、たちどころに健康を損ない、善玉菌が優位になれば、強靭な身体を作り上げる。孫たちの腸内フローラは、さぞ強力な免疫力を呼び起こしているものと推測される。

腸活という言葉が流行り、「乳酸菌〇〇株」といった健康商品、サプリメントが売られている。おそらく多くの都市生活者の関心を呼んでいると思われる。しかし、こうした商品を作って販売する人たちは、本当のことを決して表に出しはしない。どんな種類の善玉菌であっても、それが腸内に入ったところで、ほぼ役に立たない。微生物の働きとは、まず彼らのエサがあって、初めて有用なたんぱく質を作り出す。やみくもに善玉菌を食べたところで、肝心の善玉菌のエサを食べなければ、効果は見込めないのだ。そして、善玉菌のエサになるものは、ずばり自然農法の農作物だということになるだろう。

逆に考えてみよう。自然農法の畑には、たくさんの作物がある。そして、その作物には、たくさんの善玉菌が付着している。つまり、畑の野菜を食べていれば、善玉菌もエサも、同時に腸内に運んでいることになる。わざわざサプリメントを飲む必要はない。この畑に来る子供たちは、みな同じ経験をして育っているのだ。

2021年3月、「自然の側」の子育てを学ぶ親子サロン事業をスタートさせた。いま、千葉県我孫子市の農園に、6組の親子が定期的に集まる。筆者は、ただ場所を提供しているだけなのだが、事業を始めるとき、子供たちにひとつプレゼントを用意した。それは、おそらく日本に1つしかないであろう「食べられる砂場」だ。

参考写真 畑の土を食べる子供たち 執筆者提供

どんな公園であっても、保育施設であっても、「食べてOK」と宣言する砂場はここにしかないだろう。私が自分で食べて安全を確かめてもいるが、一歳未満の子供たちは本能的に土を口に入れる。もちろん、土のついた野菜も雑草そのまま口に入れる。初めて口にした日は、少し便が緩むこともあるようだが、それ以降は、強靭な肉体を作り上げている。この砂場のある農園は、子供たちにとっても、また逞しい我が子を見守る親にとっても、きっと充実した生活の一部になっていることだろう。

つづく

執筆者:横内 猛



自然農法家、ジャーナリスト。1986年慶応大学経済学部卒業。読売新聞記者を経て、1998年フリージャーナリストに。さまざまな社会問題の中心に食と農の歪みがあると考え、2007年農業技術研究所歩屋(あゆみや)を設立、2011年から千葉県にて本格的な自然農法の研究を始める。肥料、農薬をまったく使わない完全自然農法の技術を考案し、2015年日本で初めての農法特許を取得(特許第5770897号)。ハル農法と名付け、実用化と普及に取り組んでいる。

※寄稿文は執筆者の見解を示すものです。

※無断転載を固く禁じます。
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