台中市のある町の日常風景。
表通りに面した道端に、豚肉を売る露天の店があった。
人の良さそうな若い男性が、一人で店をやっている。
平台には豚肉のブロックがいくつも置かれ、客の注文に応じて切り売りしていた。
その傍らの地面に置かれていたのは、長辺が60センチほどのプラスチック製の赤い容器。
おそらく、もとは豚肉を入れて運ぶ箱であろう。
しかし、その赤箱に入れられていたのは豚肉ではなく、1歳ほどの男の子だった。
まだ十分に歩けるほどではないので、箱のなかで、おとなしくしている。
完全に自分の世界である赤い容器のなかで、男の子は、体を折ってすやすやと寝ている。
目を覚ませば、その可愛らしさで道行く人々を引きつけて、大変な人気者になる。
豚肉を売る若い男性が、その子の父親である。
母親がいないのではない。
母親は病院の看護師をしているため、勤務シフトに入っている日は、こうして父親が「息子を箱に入れて」自分のそばに置いているのだ。
ベビーシッターを頼むことは、経済的な理由で難しいという。
そんなことよりも、この父親は、まだ小さな息子が大好きで、大好きで、気も狂うほど愛していたから、どうしても自分のそばに置きたかった。
なかには、箱に入れられた子供を見て、心を痛める通行人もいた。
しかし父親は、人目に触れることなど、どうでも良かったのだ。
どこかのテレビ局が取材に来たが、普段通りのまま、勝手に映させた。
それが、今年の初めのこと。
あれから数か月がすぎた。男の子は、野を跳ねとぶ小動物のように、爆発的に走り回るようになった(だろう)。
その後日談は伝えられていないが、確実なことは、この息子は、今も、これからも、両親を心から愛する人間であるということだ。
(翻訳編集・鳥飼聡)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。