2008年6月20日、チベット・ラサのポタラ宮の前で巡回する中国武装警察の警官ら(Guang Niu/Getty Images)

習近平氏、被災地ではなくチベット視察 狙いはインドか

中国河南省ではこのほど、豪雨で深刻な洪水に見舞われた。しかし、中国共産党最高指導者、習近平総書記は21日、被災地の住民を慰問することなく、チベット自治区入りした。背景には昨年起きた中印衝突があるとの見方が出ている。

中国国営中央テレビ(CCTV)は25日、習近平氏のチベット視察を「歴史的」と特集を組んで報道した。報道によると、習近平氏は1998年に福建省党委員会の副書記として、2011年に国家副主席としてチベットを訪問したことがある。

習近平氏のチベット入りの前日、中央部の黄河流域に位置する河南省で大規模な洪水が発生した。

ドイツ紙tazは、「河南省で起きた人道的な災難は、気候変動のリスクを顕在化しただけでなく、中国当局の検閲制度の理不尽さを浮き彫りにした。(中国当局は)生存者のネット上の投稿すら削除した。『人民日報』の水曜日(7月21日)の一面には、豪雨に関する報道が全く掲載されなかった」と批判した。ドイツも、15日までに広範囲で大雨に見舞われ、各地で洪水が相次いだ。

CCTVの報道によると、習近平総書記はチベット自治区に入った後、まず林芝(ニンティ)市の尼洋河(ニャン河)地域を視察した。同河は、世界で最も源流の標高が高い河川、雅魯蔵布江(ヤルンツァンポ川)の重要な支流である。中国当局は過去10年間、ヤルンツァンポ川沿いに多くのダムを建てており、建設中のダムもある。中国当局は今年3月、林芝市に位置する墨脱ダム(メトクダム)の建設計画を発表した。

メトクダムは、三峡ダムを上回る巨大な水力発電ダムとなるため、環境への影響などで懸念されている。また、同ダムはインドとの国境に近いため、インド政府は中国当局が同ダムを「兵器化」し、ヤルンツァンポ川の水流を遮断し、あるいは変える恐れがあると懸念している。インド東北部はヤルンツァンポ川の中下流に位置する。

CCTVが発表した写真では、中国共産党中央軍事委員会の張又侠副主席、劉鶴副首相などが習近平氏の視察に同行した。習氏は地元幹部との会見で行った演説で、「国を治めるには国境を治めなければならない。国境を治めるにはまず、チベットを安定させなければならない」と述べた。

昨年5、6月、中国軍とインド軍の兵士はチベット自治区内の国境付近で複数回衝突し、死傷者を出した。

国内で大きな災害が起きたにもかかわらず、習近平氏が中印衝突から1年後にチベットを視察したことに、米国に歩調を合わせるインドをけん制したいという中国側の狙いがあるとの見方が出ている。

時事評論家の江峰氏は、YouTubeの自身の番組チャンネル「江峰時刻」において、「中国国内で自然災害が発生すれば、指導者らはいち早くどこかに雲隠れする」と指摘し、「しかし、今回このような大変な時に、習近平氏がチベットを視察したのは特別な目的があるからだ」とした。

江氏によると、現在、チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世が高齢で、その後継者問題に中国当局とインド政府が神経をとがらせている。「後継者問題はチベット亡命政府ではなく、チベット全体に関わる政治問題である」と江氏は示した。

「米中対立で、多くの企業は中国にあった生産ラインをインドに移管した。これによって、『世界の工場』という中国の地位が衰え始めている。中印両国の国力の競争も本格化している。中国当局は米国の代わりに世界覇権を実現したければ、まず主要競争相手であるインドを抑えなければならない」

江峰氏は、中国当局は米バイデン政権が提案した二酸化炭素(CO2)削減目標に便乗して、メトクダムを通じてインド側の水資源を手に握ろうとする企みがあるとした。

また、同氏は「米中対立が激化するなか、インドは米国に付き、米国のアジア太平洋地域政策に積極的に協力するようになった。今後、中国とインドの間で本格的な軍事衝突が起きるだけでなく、さらにエスカレートする可能性が高まっている。中国当局は、インドとの軍事衝突を利用して、国民の共産党政権への不満をかわす可能性がある」との見方を示した。

(翻訳編集・張哲)

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