【歌の手帳】山が遠ざかる
また見ることもない山が遠ざかる(種田山頭火)
種田山頭火(たねださんとうか1882~1940)の作。これを「俳句」といってよいのか分かりませんが、自由律俳句と呼ばれています。
五七五の定型もなく、季語も季題もない、俳聖・芭蕉が聞いたらひっくり返るほど破天荒な短詩形。ところが、これがなかなか、腹ぺこの時に焼き芋を食べたような、胃にずしんと落ちる重みを感じる「文学」なのです。
種田山頭火という人は(ほめ言葉として言うなら)間違って人の世に生まれてきたような人間でした。吹く風や流れる水の本性を生来もっていましたが、結局、風にも水にもなれず、人の金で大酒を飲み、山谷を放浪します。
よろよろと歩く山頭火。その傍を、また一つ、山が遠ざかって行きました。
(聡)
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