(EMMANUEL DUNAND/AFP/Getty Images)
≪医山夜話≫ (17)

ナンシーのカルテ⑤

 ナンシーは引き続き治療を続けており、結果がどうなるかは誰も予測することができません。死神に設けられた関門を乗り越え、九死に一生を得られるかどうかは、彼女自身が決められる事ではありません。彼女が遭遇した様々な困難は、彼女が蓄積してきた過去からの業による結果にみえます。私の理解では、過去の人生や今の人生で、ナンシーが作り出した業が彼女の命を脅かしており、その苦しみにより彼女はその借りを返しているのです。医師として、私にできることは、彼女がそれを理解し受け入れられるようにアドバイスすることだけです。「もっと善良な心で人に接しなさい」と。

 よく人から、「なぜ人はがんになるのか」と聞かれますが、現代医学から解釈すれば、さまざまな要素が挙げられます。例えば、遺伝、喫煙やアルコールなどの生活習慣、環境汚染、食事、性格などです。しかし、これだけではがんの根源を説明することはできません。がんの根本的な原因は、別の空間に存在する「業」であり、現代のテクノロジーを駆使しても、触れることも見ることもできないものです。

 私は、ナンシーの病気を治療する過程で、これまでに気づかなかった問題点を発見しました。それは、多くのがん患者に共通するものですが、つまり、彼女は生活の中でぶつかった様々な気に障った事柄を、長期にわたって自分の心に留めておくことです。人は、時として気に障るような言葉を投げかけられたりするものですが、がん患者たちは、それらの言葉を決して忘れず、いつまでもその恨みを抱きつづけているのです。

 ナンシーは、健康に対してかなり気を使っています。彼女が健康のために実行した食事、および運動メニューは1冊の本が書けるほど素晴らしい内容です。彼女は、毎日摂取するカロリー、たんぱく質、ビタミン類の摂取バランス、毎日歩いた距離、毎日の心拍数などを厳密にコントロールしていたのです。しかし、人間の健康や寿命を決めるものは、それらとは別の次元にあるということを、彼女は理解していなかったのです。

 私はかつて、健康と心の関係や、「真・善・忍」に従って心を修めることの意義などをナンシーに話したことがあります。しかし、ある日、彼女は「なぜ真・善・忍を修めれば、病気を治療することができるとはっきりと言わなかったのか」と私に不満を漏らしました。

 私は、「自分に非があるかもしれないとき、『自分の心を探して御覧なさい』と私が言ったら、貴方は『自分は何も悪くない』といったのではないですか?」と答えました。

 私は、彼女が堅く閉ざした殻の中に、誰にも触れられたくない「頑固な執着心」があることを感じていました。それは、決して薬物治療もレーザー治療も届くことのない、彼女の病の根源だと、私は思いました。命を脅かす病気は、実は自分が作り出した業によるものだということを、彼女が知るよしもありません。彼女の信じる「常識」が、彼女の目の前にある真実を覆い隠しているのです。

 ナンシーは現在も、最高の医師、薬、治療法を求め続けています。彼女はあちらこちらの病院へ通うために忙殺されましたが、結局何度も失望する結果となりました。運命や神を信じなかった彼女は、様々な失敗を重ねた後、徐々に心を開き始めていました。彼女は真剣に、業力と病気の関係、神様の存在を考え始めたのです。

 * 後記 *

 ナンシーの症例は実話です。ナンシーは今でも治療を続けており、結果はまだ分かっていません。ナンシーのケースから、病気とそれを治療する経過が明らかになってきます。私たちの命と、その運命を決めるものは一体何なのでしょうか?

 

(翻訳編集・陳櫻華)
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