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≪医山夜話≫ (15)

財産

財産は使うために存在するものです。お金がないと生活ができませんが、お金ばかりに目が眩んでもいけません。ひたすら節約して一文も使わないのなら、山積みの財産を持っていてもまったく意味がありません。金銭は体の外にあるもので、この世に生まれた時に持ってくることもできなければ、死ぬ時にあの世へ持っていけるものでもありません。

 私の患者の中に、命を惜しまず自分の家を守って離れない人がいました。彼は体を壊すまで、それに執着していたのです。

 とても見晴らしのよい地形の険しい山の斜面に、ジャックは大きな家を買いました。彼は滑り落ちそうな家を守るために、常に心を砕いていました。毎日のように雨が続くと、とても不安になります。山の斜面の土壌は不安定で、少しでも「ため息」をついたら、家はすぐに滑り落ちてしまいかねません。ハリウッド映画によく見られる建物の倒壊シーンは幻想の世界ですが、彼の家の危険度は現実のものでした。めったに見られないようなリアルな倒壊シーンを撮影するため、家の前にカメラを設置して待つ人も現れました。

 ジャックは食費を節約してなんとか頭金を払い、日常の出費を削ってローンを払い続けていました。そのため、家のことが彼の頭から離れません。漢方では、考えすぎると脾臓を損ね、心配しすぎると気を虚弱させるといいます。脾臓を傷めた彼は食欲が激減しました。家の倒壊を心配していた彼はいつも不安な気持ちになり、腎臓を損ねてしまいました。まさに、起こっていない事のために心が休まらず、いったん不祥事が起こったら更に恐れて止まないとは彼のことです。長期にわたって恐怖に満ちた生活を送った結果、彼は身体を壊しました。私の診療所に来た時、彼の病状はとても深刻だったのです。

 ある日、連日の大雨の後、消防隊員から厳重な警告を受け、彼はとうとう家を出ることになりました。彼は、苦労して手に入れた屋敷が山の斜面を滑り落ちながら解体し、最後に木材とコンクリートの混じったゴミの山となったのを目撃しました。彼は胸が張り裂けるほどの悲しみを覚え、天に向かって不満を訴えました。

 手に入れた家を自分のものだと彼は思い込んでいましたが、実は、彼の運命の中にそれがありませんでした。ましてや地球上のすべての物も、真に誰かのものにはなりません。人間の身体も一着の服にすぎず、しばらく借りて着ていただけです。本当にこの「服」を持っていくには、修煉するしかありません。さもなければ、人間は死後、何も持っていくことはできず、それを悟った時に後悔しても、もう遅いのです。

(翻訳編集・陳櫻華)
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