沖縄・奄美の世界自然遺産登録 中共は過去「主権」理由に反対 今回はなぜか沈黙
ユネスコ世界遺産委員会の諮問機関・国際自然保護連合(IUCN)は5月10日、政府が推薦する「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」は、自然遺産としての登録がふさわしいとする評価結果を政府に伝えた。これにより、7月にオンラインで開催される同委員会の会合において、正式な登録が見込まれる。
世界遺産委員会の委員を務める国は21あり、このなかには中国が含まれている。委員の国は遺産登録までの審議、条約の履行など重要な決定を行う権利を持つ。
広く知られていないことだが、中国共産党は琉球列島の主権をめぐり、この地域が「日本の世界遺産」として登録されることを強く反対してきた。
日本政府が世界遺産登録に向けた動きを本格化させたのは2013年だ。琉球列島の一部を自然遺産に推薦することが2016年11月に公表されると、中国官製メディア・観察者網は次のように噛み付いた。「中国政府はユネスコの常任代表部らと交渉を繰り返している。つまり、釣魚島は固有の領土であり、日本には世界遺産として申請する権利はない」
共同通信によれば、当時、中国は外交ルートを通じて日本に懸念を表明したという。中国側の申し入れに対して、日本政府は、推薦地に尖閣諸島は含まれていないと回答。また、同諸島は日本の固有の領土であると従来の主張を中国側に伝えた。
2018年、中国官製メディアは再び、琉球列島の一部を世界遺産に推薦する日本の動きを批判した。中国社会科学院の政治科学研究所研究員・馮鉞氏は共産党機関紙・環球時報への寄稿文で、第二次世界大戦のポツダム宣言に、琉球列島が日本の領土に入らなかったことを論拠に「日本はユネスコを通じて領土の盗用を正当化しようとしている」と主張した。
中国共産党は領土や領海について、時勢に合わせて主張を変えている。尖閣諸島については、中国の過去の公式資料によれば、中共政権が50年代に、釣魚島は日本の領土との認識を示していた。
しかし、1968年の国連の調査で、尖閣諸島を含む東シナ海に、石油が埋蔵されているとの報告が出ると、中国は同地域の領有権を主張し始めた。1972年の沖縄返還協定後は、尖閣諸島を「台湾の付属島嶼であり、古くからの不可分の中国領土」とした。
参考:中共、尖閣諸島の領有権主張強める 専門家「国内向けの政治材料」
今回、沖縄・奄美に関するIUCNの勧告について、中国政府はなぜか沈黙を貫いている。外交部報道官は5月19日まで、この件についてコメントを発していない。速報を打つ日本の賑やかな報道を目にしているはずだが、中国本土メディアは一切情報を発信していない。無言の理由は明らかになっていないが、中国がユネスコ世界遺産委員会の一角を占めている以上、状況を注視する必要がある。
日本の外務省に、中国側から申し入れはないか問い合わせたが、回答は得られなかった。
(佐渡道世)