≪医山夜話≫ (49)

頭痛の漢方治療

「長い間ずっと頭痛に悩まされています…。漢方で何か良い治療法はないですか」とよく聞かれます。そんな時、私はいつも「何が原因で頭痛を引き起こしているのでしょうか。どの部位がどのように痛いのですか、それはいつからですか?」と問い返します。すると「あら、そんなに複雑なんですか…。病院に行くと、医者はただ鎮痛剤を処方するだけです。飲んでも頭痛に効かないばかりか、胃腸の調子まで悪くなる始末です。頭の痛み、足、腰、肩の痛みに対しても、全く同じ鎮痛剤です…」と、患者は答えます。西洋医学は細かい科目に分かれているにも関わらず、治療する時には病気の原因まで探らず、同じ症状なら同じ薬で治療することが多々あります。

 一方、漢方の診療は科目ごとに分けられておらず、一人の漢方医師はさまざまな科目の病症に出会うことができます。漢方医の治療は表、裏、寒、熱、虚、実、陰、陽という「八綱弁証」で診断を行い、汗(発汗)、吐(吐く)、下(下す)、和(調和)、温(温める)、清(冷ます)、補(補う)、消(減らす)という八つの方法で治療を行うのです。

 病因を分析するための弁証方法は、病因弁証、八綱弁証、気血津液弁証、臓腑弁証、衛気営血弁証などを挙げることができます。どの患者、どの病気に対しても、数種類の弁証方法を併用するのです。すなわち、病因弁証で病気になる原因を探り、臓腑弁証で病変部位を確定して、八綱弁証で病の性質を突き止め、気血津液弁証で気血の虚実と流れの状況をチェックします。

頭痛を例にとると、頭痛の部位が異なるのは、頭痛を起こす原因がそれぞれ異なるからです。偏頭痛の原因は肝の熱が昇るためであり、また目は肝に関連が強い器官なので、偏頭痛の時、目の周囲に痛みが伴うことがよくあります。憂いや怒りも、すべて頭痛の原因になります。また、額は陽明経が通るところなので、陽明経が塞がると額に痛みが現れやすくなります。肝の熱が胆に移り、胆の熱が上がると、少陽経が流れる両側頭部に痛みが現れやすくなります。他にてっぺん痛、後脳部痛、頭全痛、脳裏の頭痛、顔面部痛など、多種の頭痛があります。痛みの部位が違えば、治療法も違ってきます。

 多くの頭痛は、交通事故による軽度の脳震盪に起因します。交通事故に遭うと、最初は首の筋肉が凝って痛くなり、次第に痛みが肩と腰に広がり、肩と腰の動きが難しくなってきます。通常は、二日後に頭痛が出て、痛さが段々とひどくなっていきます。多くの場合、交通事故に遭うと、特別な例を除き、頭が痛くなるのが普通です。事故の後、直ちに治療すれば1、2回で治愈でますが、もし治療を遅らせると、1ヶ月~2ヶ月、ないし半年かけて治療する必要があります。

 頭痛は軽い病気に見なされやすいのですが、様々な頭痛患者すべてに効果的な治療法を施すのは、容易なことではありません。特に、頑固で長期的に持続する頭痛にはかなり手を焼きます。

 私は臨床で多くの頭痛を治愈したことがありますが、その中にはとても頑固な例がありました。一年経った今でも、鮮明に覚えています。

 その患者の名前はアンといい、頭痛歴は三十年。三十年前、彼女は乗馬していた時に転落し、後頭部を地面に打ってケガをしました。その後、屋上から木の棒が落ちてきて、ケガを負っていた彼女の後頭部を直撃しました。それ以来、彼女は頭痛に悩まされるようになりました。3、4回の手術を受けましたが頭痛の原因が見つからず、脳神経組織を破壊してしまい、彼女の主治医もお手上げでした。日が経つにつれて痛みがひどくなり、発作が起きると後頭部が針で刺されるように痛くなるといいます。更に、痛む部位は固定しています。毎回頭痛の発作が起きると、彼女は1週間何もできず、ぼうっとしてベッドに横たわることしかできません。少し痛みが軽くなっても、また発作が起こります。このように繰り返し、薬を飲んでも効きません。「本当に死ぬよりも苦しい」とアンは私に訴えました。

 初めて私の診療所に来た時、アンは両手で頭を抱えながら入ってきました。家族によると、彼女は救急室から直接私のところに送られたようです。診察してみると、彼女の脈は細くて渋く、舌は暗い紫色をし、典型的な瘀血(おけつ)による頭痛でした。そこで、私は当帰(とうき)、ムカデ、細辛(さいしん)を処方し、血行をよくして経絡を通じさせ、乱れた気を整えて痛みを止めることにしました。

 彼女はしばらく薬を飲んだ後、少し好転したように見えました。しかし、少し時間が経つと、また頭痛を訴えます。薬を飲めば痛みが軽減しますが、薬を止めると、また頭を抱えて「痛い、痛い」と叫びます。

 私は多くの処方と治療法を試みましたが、どれも短い効果しか得られませんでした。ある日、彼女の舌苔(ぜったい)が粘ついていることに気づき、甘い物を食べる嗜好がないかと聞いたところ、彼女は「はい」と頷きました。どのくらい甘い物を食べるのかと聞くと、彼女は2、3日で一箱の飴を「完食」し、一日にチョコレートを数枚と毎日のようにアイスクリームを食べているという驚きの情報を提供してくれました。 これでやっと、彼女の頭痛の「導火線」を発見できたのです。

 漢方医学から見ると、糖分は湿邪や痰を生じやすいものです。痰と湿邪が経絡を塞ぎ、陽気の流れが抑えられ、怪我したことも重なって、彼女の頭痛が止まなかったのです。

 甘い物が頭痛の誘因だと分かった彼女は、甘い物と炭水化物の摂取を減らしました。すると、彼女の頭痛は直ちに軽くなりました。私が瘀血を溶かして血行を良くする「血府逐瘀湯」という処方を加えると、彼女の頭痛はいっそう軽くなりました。
 

(翻訳編集・陳櫻華)※≪医山夜話≫ (49)より