2021年4月、東京都内のユニクロ店舗の前を過ぎ去る男性(KAZUHIRO NOGI/AFP via Getty Images)

<独自>ユニクロ今もなお 過去に人権侵害を指摘された中国企業と取引か

ユニクロを子会社にもつファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は8日、同社の決算会見で、中国新疆で自社がおこなっている取引と人権問題との関連性について「政治的に中立的でいたい。ノーコメントだ」と述べた。そのことで、企業倫理からみた同社の姿勢が注目されている。

柳井氏は、自社製品に新疆産の綿花が使用されているかどうかについても明言していない。しかし、人権侵害と強制労働が以前から指摘されている中国企業「鲁泰紡織股份有限公司(ルータイ、Lu Thai)」との取引は継続している。2021年3月31日時点におけるユニクロ・ジーユー主要取引先の素材工場は84あり、そのうち46が中国に所在。鲁泰紡織はそのなかのひとつだ。

山東省を本社に置く鲁泰紡織は、綿花栽培から紡績、染色や織り、衣料品の製造まで手がける中国の繊維大手。総資産は150億元(約2250億円)で中国国内やインド、ベトナムなど7カ国で40以上の工場を持つ。製品の7割は米国、欧州、日本など30カ国に輸出しており、同社はユニクロのほか、バーバリー、アルマーニ、グッチなど国際的な著名ブランドと戦略的パートナーシップを結んでいる。 

少なくとも2019年まで新疆産の生地を山東省本社に提供

ファーストリテイリングの年次報告であるCSR資料「服のチカラ(The Power of Clothing)」2019年版によれば、生産パートナーである鲁泰紡織について「従業員の80%を現地で雇用し、最も安全で衛生的な職場環境の構築に努めている」という。2014年度版の同資料では鲁泰紡織を特集しており、同社日本人幹部の発言として「原材料を重視する方針のもと、綿花栽培に適した新疆ウイグル自治区に自社の綿花畑、工場を設立した」と紹介している。少なくとも2019年まで、ファーストリテイリングは鲁泰紡織と主要な取引があり、新疆産の綿花を原料とする生地を扱っていたことが明示されている。

鲁泰紡織は新疆ウイグル自治区に積極的な投資を行い、2019年まで山東省のグローバル本社に新疆からの生地と衣服を供給している。このことは、労働者の人権問題に取り組む米国の非政府組織(NGO)「ワーカーズ・ライツ・コンソーシアム(The Worker Rights Consortium、WRC)」と米NBCニュースが現地国営メディアの報道や衛星画像、財務情報に基づく調査報道で指摘している。

2020年9月のNBCの報道によれば、鲁泰紡織の2017年半期報告書に「新疆で10万スピンドル紡績生産ライン建設計画がある」と書かれている。また、同年の企業広報には、同社がバスでウイグル人を工場管理施設に連れてきて、綿花を摘ませている様子が紹介されている。2019年中間報告では、新疆へ工場移設したことで当局から100万元(約1672万円)以上の補助金を受け取っている。

新疆における大規模収監や強制労働の懸念について国際的な関心が高まるなか、2020年8月、鲁泰紡織が保有していた、新疆で綿花工場を運営する子会社・新疆鲁泰の株式の59%を、同社代表の李景泉氏にすべて売却した。この株式売却を理由に、鲁泰紡織はNBCの取材に対して「新疆ウイグル自治区への株式または投資に関与していない」と答えている。

 2011年9月、新疆ウイグル自治区で綿花を採集する農業従事者(STR/AFP via Getty Images)

フランスで告発されるユニクロ

豪研究機関・オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が2020年3月に公開した報告書で、世界的な大手企業82社が「ウイグル人の強制労働によって、直接的または間接的な利益を得ている」と指摘した。この中にファーストリテイリングの名前もある。

この指摘を受けて、同社広報は人権侵害への加担を否定。「いかなる人権侵害も容認しないという方針の下、あらゆる形態の強制労働を厳格に禁止し、サプライチェーンのすべての企業にその順守を求めている」「ユニクロが製品の生産を委託する縫製工場で新疆ウイグル自治区に立地するものはなく、同地区で生産されている製品はない」という。また、「報道されているような強制労働が確認された場合には、取引先工場に対し、当該サプライヤーとの取引停止を求める」としている。

大紀元はファーストリテイリングに対して、2019年まで新疆工場での取引を続けていた鲁泰紡織について、どのような労働環境に関する調査を行なったのかについて問い合わせた。しかし、記事発表までに、回答は得られなかった。

このような中、人権団体による、ファーストリテイリングを含む大手企業に対するウイグル強制労働疑惑への追及は続いている。4月9日、複数のフランスのNGOが、ファーストリテイリングを含む多国籍企業4社を「強制労働から利益を得ている」として告発し、仏当局に調査を要請した。

告発を起こしたのは反腐敗NGOのシェーパ(Sherpa)、世界最大の縫製業界労働問題NGOクリーン・クローゼス・キャンペーン(CCC)の仏支部であるエチック(Ethique)、ウイグル欧州学会(Uyghur Institute of Europe)のほか、中国・新疆ウイグル自治区の収容所に拘束された経験を持つ個人などだ。

これらのNGOなどは4企業に対して、新疆ウイグル自治区で生産された綿花を使用し続けることで、強制労働による人権問題を黙認したとして「深刻な犯罪に加担している」と非難した。これらの企業に対して、強制労働に関与していないというなら、その証拠を仏当局に提出するよう求めている。

「内政干渉するな」は中国共産党の常套句

ファーストリテイリングの公式情報によれば、2015年から国際労働機関(ILO)と国際金融公社(IFC)からの監査も実施している。同社は労働環境監視プログラムもある。2021年4月現在、ユニクロやGUのオンラインサイトには「新疆綿」使用を表示した商品は出ていない。ならばなぜ、柳井会長は「(新疆綿を)使用していない」と明言しなかったのか。

決算発表時の柳井会長の発言の詳細は次のとおり。「私たちは全ての工場、全ての綿花(労働や生産環境)を監視している。取引先の工場で強制労働などの問題があれば即座に取り引きを停止している。これは人権問題というよりも政治問題であり、私たちは常に中立な立場でやっていきたいので、政治的な質問にはノーコメントだ」。

柳井氏は、いま海外から疑惑の目が向けられているウイグル人強制労働について、人権上の重大な国際問題ではなく、中国国内の「政治問題」とみていることを明らかにした。中国国内に実在する、あらゆる人権侵害や弾圧に対する国際的な非難に対して、中国共産党は「中国の内政に干渉するな」として一切容認しない。柳井氏の発言を見る限り、「中立」を表明したファーストリテイリングは、中国共産党が最も望む態度をとってしまったことになる。

中国共産党は、非難したものに対して必ず報復的な行動を取る。3月下旬、スウェーデンの衣料品メーカーH&Mは強制労働への加担を懸念して、今後は新疆で綿花を調達しないと発表した。これに対し、中国共産党は淘宝網など民間の大手オンラインプラットフォームからH&Mの製品を削除すると指示。中国の官製メディアはH&M製品の不買運動を煽った。

人権や倫理といった普遍的な課題を、恣意的に「政治化」する中国共産党。対中ビジネスのリスクは、今も極めて高いことがうかがえる。柳井氏の「ノーコメント」発言について、NHKを含む大手メディアは報道したが、その後、同社の株価は3.4%も急落した。グローバル企業に対し、人権問題に関する企業倫理を求める声が高くなったことの証左といえる。

(佐渡道世)

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