古代中国の物語

真に価値があるものとは

墨子(ぼくし)は戦国時代の思想家である。「兼愛(博愛主義)」と「非攻(非戦論)」を説いて全国を遊説し、当時の儒家と同じくらい名声を馳せていた。ある日、楚王が墨家の弟子の田鸠氏に尋ねた。「墨子は有名な学者で、自らの実践は良いのだが、言葉が硬く聞きづらいのは何故か」

田氏は答えた。「例をあげましょう。昔、秦穆公(しん ぼくこう)は、娘を晋国の王子に嫁がせようとした時、娘より付き添いの侍女らに綺麗な格好をさせました。すると、晋国の王子は娘ではなく侍女を気に入ってしまいました。また、ある宝石商が楚国から鄭国へ宝石を売りに行った時のことです。商人は、モクレンで美しい宝石箱を作り、シナモンの香りをつけ、表に赤と緑の翡翠を華やかに飾りました。訪ねてきた人はあまりにも綺麗な宝石箱に目移りし、宝石ではなく宝石箱を買いました。つまり、商人は箱を売ることは得意でも、宝石を売るのは下手だったということです」

田氏は続けた。「現在、社会で流行っている学説は皆巧みに美しく飾った言葉が多く、聞こえはいいが真実味のないもので、見かけは立派でも役に立たないのです。君主も往々にして、中身より文章のあやを重視しています。過去の王たちの思想を広め、聖王たちの主張を伝えるのに美辞麗句を並べるなら、人々は文章の華麗さに惹かれて本当の価値を見過ごしてしまいます。それでは、秦穆公や宝石商と同じではありませんか。故に、墨子の言葉の多くは綺麗事を並べ立てることはないのです」

▶ 続きを読む
関連記事
「いい塩梅」の語源は、文字どおり塩と梅。梅を漬けると生まれる梅酢と塩の加減から生まれた言葉は、やがて人間関係や国を治める知恵を表す言葉へと広がっていきました。
寛大な人は特別な性格だからではなく、周囲の人の気持ちや変化に気づく力が高いのかもしれません。研究が示す「寛大さを育てる方法」を紹介します。
慢性炎症は、老化や糖尿病、認知症など多くの病気の背景にあると考えられています。専門家が、免疫バランスと腸内環境の関係、そして健康寿命を延ばすために今日からできる習慣をわかりやすく解説します。
肩や首の痛みの原因と対処法を、リハビリ専門医が解説。正しい座り方・枕の選び方・毎日できる3つのストレッチで、慢性化する前にセルフケアを始めましょう
30代、40代のビタミンD不足が、将来の脳の健康に影響するかもしれません。最新研究では、認知症の症状が現れる何年も前から脳に変化が起きる可能性が示されました。今からできる対策をわかりやすく紹介します。