【漢詩の楽しみ】寄黄幾復(黄幾復に寄す)
我居北海君南海、寄鴈傳書謝不能、桃李春風一杯酒、江湖夜雨十年燈、持家但有四立壁、治病不蘄三折肱、想得讀書頭已白、隔渓猿哭瘴煙藤
我は北海に居(お)り君は南海。雁(かり)に寄せて書を伝えんとするも能わざるを謝す。桃李(とうり)春風(しゅんぷう)一杯の酒。江湖(こうこ)夜雨(やう)十年の灯(ともしび)。家を持(じ)せども但(た)だ四立(しりつ)の壁有るのみ。病を治すに三たび肱(ひじ)を折るを蘄(もと)めず。想(おも)い得たり、読書せる頭(かしら)已(すで)に白からん。渓(けい)を隔てて、猿は瘴煙(しょうえん)の藤に哭す。
詩に云う。私は北海のほとりに居り、君は南海にいる。故事にならって雁に手紙を託したいのだが、それも叶わず、君には申し訳ない気持ちだよ。今思い出すのは、うららかな春の日に、二人して桃や李(すもも)の花の下で酒を酌み交わしたことだ。以来、郷里の江西を離れて十年、それぞれ別れたままになったが、あの雨夜にともされていた古家の灯火は、まだ人がいて、ともされているだろうか。私は今こちらで家を持ち、なんとか生活を維持しているが、漢の司馬相如のように、部屋になにもない貧乏暮らし。世渡り下手という病を治すため、肘を三度も折るような無駄な苦労はせずともよいはず。そこで、ふと君のことに思い至ったよ。君の頭は、もう白髪になっていよう。そっちの南方によくある、わるい霧の立ち込める谷川の向こう側で藤にすがって啼く猿の金切り声でも聞きながら、君はまだ読書に励んでいるだろうがね。
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