【紀元曙光】2021年1月22日

宮沢賢治(1896~1933)には、37歳で病没する以前から、ある種の「透明感」があった。

▼短編集『注文の多い料理店』が世に出たのは大正13年(1924)。第一次大戦、関東大震災、スペイン風邪などの大異変が過ぎた後の、荒涼とした精神的風景のなかに人々が立っていた頃だった。

▼宮沢賢治の作品を当時の世相に対照させて鑑賞するのは、作品のもつ適度な体温を奪うので、いたすまい。ただ、およそ百年を経た現代に賢治を味読することは、彼が後世の日本人に遺した「祈り」に共感するという意味で、有意義であるように思う。

▼表題の作品。東京から来た二人の紳士。ピカピカの鉄砲は、娯楽で山の動物を撃つためである。全く無知なまま、山奥へと入っていく二人。おや「山猫軒」。こんな田舎に都会風の西洋料理店があるとは驚きだ。「当店は注文の多い料理店です」と書いてある。よほど人気のあるレストランらしい。

▼ところが「注文の多い」とは、店から客への要求が多いことだった。身につけているものを外し、体に塩をすりこむように「注文」される二人。「食べられるのは僕たちだ」。恐怖のあまり泣き出した二人の顔は、紙くずのように、くしゃくしゃになった。そこへ死んだはずの2頭の猟犬が飛び込んできて、山猫軒はさっと消える。二人の空腹を満たしたものは、西洋料理ではなく、地元の猟師がくれた「だんご」だった。ただ東京に帰っても、くしゃくしゃの顔は元にもどらなかった。

▼さて現代の日本人。よもや賢治が書いた「くしゃくしゃの顔」になってはいまいか。鏡を見よう。

関連記事
寒い季節こそ、ゆったり過ごし心身を整えるチャンス。睡眠や食事、メンタルケアで冬を快適に楽しむ方法をご紹介します。
50年以上前から次世代の食料として研究されてきたオキアミ(プランクトン)。クジラなどの海洋性生物にとっては生存のための原初的な存在だ。そのオキアミからとれるオメガ3が注目されている。本文にあるようにオメガ3は人の健康にとっても有益なものだ。クリルオイルは、オメガ3と抗酸化成分が豊富で人気のある健康補助食品。フィッシュオイルに比べてコストが高い点が難点だが……
仏に対抗しようとした調達が、暗殺未遂や陰謀を重ねた末、地獄に堕ちるまでの報いの物語。
「犬に散歩される」気の毒な飼い主たち、笑っちゃってゴメンの面白動画→
過度な運動や減量で陥りやすい「低エネルギー可用性」。エネルギー不足が体に与える影響とその対策について、専門家のアドバイスを交え解説します。