【紀元曙光】2020年12月14日
時は元禄15年12月14日。赤穂四十七士が吉良邸に討ち入った。
▼といっても、旧暦であるから317年前の今日ではない。西暦では1703年1月30日に当たる。その夜、江戸に雪は降っていなかったし、山鹿流の陣太鼓も打ち鳴らさなかった。芝居と史実は全くといってよいほど違うのだが、日本人は生来、忠臣蔵が好きなのだ。
▼天下泰平、江戸の中期である。世が麻のごとく乱れた戦国時代から百年も経れば、本当に実戦を経験した武士など一人もいないといってよい。あるとしても、高田馬場の決闘に助太刀で駆け付けた中山安兵衛のように、あくまでも個別のケースとして命のやりとりをしたぐらいだ。戦国時代の武者と、江戸時代の武士とは、全く違うといってもよいだろう。
▼腹をすかせ、やせ我慢をしてでも、武士としてどうあるべきか。そうした観念上の理想像は、ひとえに江戸時代の産物である。戦国大名は、自身が勝ち残るために権謀術数、裏切り、寝返りの連続であった。江戸期以前に、個人が武技を試す機会として試合におよぶ様式はあったが、それは武芸者として自分の名を挙げるという実利にもとづく。
▼亡父の仇討ちは、いくぶん儒教的道徳という精神作用が加味されるが、絶えた自家を再興するためでもある。これが亡君の恨みを晴らす忠臣蔵になると、かなり観念的になり、結果がどうあれ行く先は死しかない。忠義を形にするために、彼らは命を捨てた。
▼討ち入りした四十七士。その義挙を「武士の鑑」と絶賛した江戸の庶民。途中で脱落した、ほとんどの旧赤穂藩士。みな日本人であった。
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