【紀元曙光】2020年10月11日

幻のように遠い記憶だが、その夢のままに、美しく残しておきたい。

▼その地を新疆ウイグル自治区と中国共産党は呼ぶが、民族の自治はない。新疆という言い方も、漢人の視点からみた僻地という意味である。ウイグル人にとっては祖霊の眠る母国にほかならず、他者から僻地呼ばわりされるのは片腹痛いことだろう。

▼長距離列車に乗ってウルムチ駅に着いたのは、確か明け方の、まだ薄暗い時刻だった。同じく下車した乗客は、みな現地の人々である。日本では経験したことのない澄みきった早朝の空気が、地図で眺めて憧れた街にとうとう着いたという筆者一人の感慨を包み込んだ。

▼小欄の筆者が初めて中国を体験したのは、1984年の春から夏にかけてだった。「地球の歩き方」の中国編が出たばかりの頃である。日本から香港経由でビザをとり、個人での中国旅行ができるようになったので、皆が手に同じ「歩き方」もって中国を目指した。40年近く前、観光ずれしていない素朴な庶民のなかに埋もれて、あちこちを旅した3か月は、そのまま自分の人生になったのだなあと、今つくづく思う。

▼筆者も若かった。ウルムチで驚いたのは、街で見かけるウイグル人の娘さんが、あまりにも美しかったことである。現代の女性にあるような安っぽい美容や服装ではない。その娘さんの母や祖母が若いころにしていたであろう、さりげない装いの髪飾り一つをつけて、日々の仕事に精を出すあの静かな横顔は、もはや極美といってよかった。

▼こんな田舎の食堂にも、人間の幸せはある。それを破壊するものを、筆者は許せない。

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