尖閣諸島周辺で外国漁船に対応する海上保安庁巡視船。参考写真、2012年撮影(GettyImages)

石垣市議会、中国公船による尖閣侵犯と漁船追尾についての意見書 全会一致で可決

石垣市の臨時議会は5月15日、市行政区域の尖閣諸島周辺に中国海警局の巡視船が領海侵入し、魚釣島で操業中の漁船に接近し追尾した事案についての意見書を全会一致で可決した。石垣市は政府と沖縄県に対して、中国政府へ厳重に再発防止を求めることや、中国の国際法違反の行動に対して国際社会と連携して対処することを求めた。

石垣市議会は意見書と同時に、中国国家主席および在日中国大使館に宛てた抗議決議も可決している。これには、「尖閣諸島は、歴史的にも国際法上も我が国固有の領土で、従来から極めて重要な漁場である」とし、中国側の行動は「断じて容認できない」と強い抗議を示した。

意見書や沖縄現地報道によると、5月8日、中国海警局の4隻が日本の領海内を侵犯し、うち2隻がの西南西約12キロの海上で与那国町漁協所属の漁船「瑞宝丸」9.7トンに接近し追尾した。警備にあたっていた海上保安庁の巡視船が警告を行い、緊張が高まった。4隻の中国海警船には3000トン級武装巡視船「海警1304」が含まれていた。日本漁船を追尾したのは、「海警2501」5000トン級ヘリコプター搭載巡視船と「海警14603」1000トン級巡視船という。軍艦相当の大口径砲を備えているとみられる。

元外務副大臣の佐藤正久・参議院議員はソーシャルサイトで14日、中国海警船5000トン級の2隻が含まれていたことについて「海保にも2隻しかない『しきしま』『あきつしま』級、そんな大型公船が漁船を追いかけるとは、異常すぎる」「尖閣諸島での中国公船の主権侵害、段階が変わったという認識での対応が大事」と書き込んだ。

尖閣諸島の沖合で中国海警局の船が領海に侵入したのは、4月17日以来、今年に入って8回目。しかし今回、中国海警船は5月8日~10日にかけて3日連続で2隻が領海内を侵犯しており、異例の長さだった。近年では、公海ではなく日本領海内で操業中の日本漁船が中国海警船に追尾されたのは今回が初めて。

日本政府は主権侵害であるとして中国政府に対し厳重な抗議を行った。しかし、中国外務省は12日、「漁船は中国の領海で違法に操業していた」として、尖閣諸島領海で日本漁船が違法操業したと法執行権を初めて主張した。さらに「日本側に新たな争いごとを作らないよう求める」などとして、逆に日本政府を批判した。菅官房長官は、こうした中国側の意見は「全く受け入れられない」と述べ、周辺の警戒監視に万全を期すと強調した。

石垣市の意見書は、「市の漁業者をはじめとする尖閣諸島周辺海域で操業を行うわが国の漁業者に、これまでにない不安を与えている」「中国海警船が今後さらに日本漁船に接近し追尾することが繰り返される可能性もある」と懸念を露わにした。さらに、政府と沖縄県に対して、中国政府に対して厳重な再発防止を求め、警戒監視体制の強化、日本漁船を保護する体制の構築および中国の国際法違反の行動に対して国際社会と連携して対処していくことを要求している。

ますます活発化する中国の力を伴う影響力拡大

世界的な中共ウイルス(新型コロナウイルス)による経済及び社会的な非常時を迎えるなか、中国共産党政権は南シナ海、東シナ海を含むインド太平洋地域での活動をさらに活発化させ、日本を含む近隣諸国に力を使った威嚇を行っている。2月以降のコロナ危機期間で、海上民兵あるいは海警局のスピードボート10隻による台湾海洋警備艇に対する組織的な襲撃(3月)、中国公船のベトナム漁船への衝突と沈没(4月)、そして今回、海警船による日本領海内での日本漁船への追尾(5月)が発生している。

ほかにも、中国空母「遼寧」など駆逐艦6隻艦隊が宮古海峡を往復し、台湾周辺で軍事演習を行った(4月)。台湾東部にある南シナ海の東沙諸島では、離島奪取演習が行われた(5月)。東沙諸島は台湾実効支配の要衝とされ、中国領土の海南島には、中国初の国産空母「山東」も同島の基地に配備されている。

中国共産党は2018年3月に組織再編を発表し、これまでの国家海洋局の管理下にあった海警局を、習近平主席を含む党中央メンバーが名を連ねる中央軍事委員会の下部組織・武警部隊のなかに置いた。日本の防衛省幹部学校の資料では、この再編について「国家の意思決定機関ともいえる中央軍事委員会が、事態への対応を直接コントロールできるようになった」として、その変化を注視する必要があると指摘する。

さらに、2020年4月26日、中国国営・新華社通信によれば、 第13回全国人民代表大会常任委員会第17回会議で、「人民武装警察法」改正草案が提出された。ここには、中国武装警察隊が「緊急事態への対応、テロ対策、海上法執行、救助、防衛活動を行う」と明記されている。これにより、武警の活動範囲が海上および防衛活動に広がる。

加えて5月1日には、中国海警局は南シナ海で、中国漁業が3~4カ月間の夏季休漁期入りしたことを受けて、「亮剣2020」と名付けた違法操業漁船の取り締まりを強化している。これは、休漁中の漁業資源保護を名目としているが、海上巡回と外国漁船の対応も重点に置くとしている。

共産党機関紙・環球時報は、5月の東沙諸島で行われた離島奪取訓練について、軍事専門家で鳳凰衛視コメンテーターの宋忠平氏の話を伝えている。それによると「離島奪取訓練は文字通り、東沙諸島、澎湖諸島、そしてより大きな島、すなわち台湾島を対象としたものだ」と明言している。また、「台湾の離反者が離反を主張すれば、軍事演習はいつでも行動に転じることができる」と強弁した。

これらの材料から、今後も東シナ海、南シナ海における拡張行動が活発化することが予想される。中国の力による影響力の拡大をどのように停止したらよいのか。米太平洋軍指揮官、中央情報局(CIA)長官を歴任したデニス・ブレア氏が2月20日の米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会(USCC)」の公聴会に出席し、アジア太平洋地域の米国同盟国や友好国による対策について語っている。

ブレア氏は、中国の軍事力を相殺するために、東アジアに駐留する米軍の質を確保し、その数を増やすという、トランプ政権の現在のアプローチに同意するとした。また「東アジア版NATO」構想のような、米国が参加する強力な軍事同盟の形成に高い抑止力を示し、中国側に武力攻撃のリスクを認識させる必要があると述べた。

ブレア氏は公聴会で「中国側が耐えられるかどうか分からないほどの打撃で恐れさせるべきだ」と語った。

ブレア氏の見方にもあるように、国際的な連携は共産党体制の中国の膨張を停止するためのカギとなりそうだ。一時は中止が見込まれた、2年に一度の米海軍主催の環太平洋合同軍事演習「リムパック(RIMPAC)」が今夏も開催される。中国軍の活発な動きをけん制する意味は大きい。米太平洋艦隊が4月末に発表した。

中共ウイルス流行の影響で、リムパックは通常よりも1カ月あまり遅く開催され、訓練は海上に限定する。産経新聞によれば、米側は当初中止する意向だったが、日本政府の強い働きかけで実施に至った。

(文・佐渡道世)

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