【紀元曙光】2020年3月11日

この日の原稿をどう書くか、ずいぶん以前から考えてきたが、今も心は定まらないでいる。9年前、突如発生した巨大な地震。それは巨大すぎる不幸を、まさに津波となって大量かつ同時に、日本人に投げつけてきた。

▼筆者がどんな言葉を並べようとも、あの非情すぎる光景と、それがもたらした労苦を小欄に再現することはできない。出ない声をあえてしぼり出すならば、日本人は、涙と汗を流しながら、9年間、よくやってきたと思う。

▼世界人類のなかで、日本人以外にありえないだろうと思うのだが、津波で行方不明となった人を、発災後の長い年月、それこそ何年経っても日本人は捜し続けるのだ。捜すのは行方不明者の家族だけでなく、警察や海上保安庁、自衛隊などの組織が「一人でも多くの方を発見したい」という心情を公的任務として、なんとこの国は動くのである。

▼もちろん、もう生存していないことは分かっている。しかし、捜しているのは遺骨というモノではなく、遺骨とともに家族のもとへ帰ってくる魂なのである。

▼昨年のこと。宮城県山元町の沖合いで漁師の刺し網にかかっていた人間の顎の骨が、歯型やDNA鑑定などにより11月24日、津波で行方不明になっていた同町の27歳の女性の遺骨だと判明した。

▼女性のご両親は、8年8か月ぶりに、小さな姿で家へ帰ってきた「娘」を喜びとともに迎えた。「まだ見つかっていない遺族の方々には、どうか諦めないでほしい」。女性の母君がそう語ったと当時の報道が伝えている。小欄の筆者は、そこに静かなる強さをもった日本人のありようを見る。

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