中国武漢市の紅十字会医院で医師の診断を待つ人々。写真は2020年1月25日撮影(HECTOR RETAMAL/AFP via Getty Images)

武漢市の感謝強要、「傲慢な政府」と非難の嵐 一転して「人民に感謝」

武漢市トップの王忠林・市党委員会書記がこのほど、市民に「党と指導者に感謝すべきだ」と求めたことに、各方面から不満が噴出した。同市在住の女性作家・方方氏が「政府よ、傲慢な態度をやめなさい」「武漢市民に謝罪を」と厳しく追究した。

「長江日報」は7日、3月6日に開催した同市の防疫対策会議で、王忠林氏が関係者に、市民に対して感謝教育を行う必要があると命じた。市民は「党総書記、共産党に感謝し、党の指示に従わなければならない」と述べたと報告した。

方方氏は8日のブログで、「政府は人民のための政府だ。公務員は人民の公僕のはずだ」と感謝教育が不可解だと疑問を呈した。さらに、同氏は「武漢市民に感謝すべきだ。家族を突然亡くしても、最後のお別れをする機会すらなかった」「武漢に派遣された4万人を超える医療関係者に感謝すべきだ」「今も病魔と戦う重症患者に感謝すべきだ。彼らの踏ん張りがなければ死者数はもっと増えている」「自宅に閉じ込められた900万人の武漢市民に感謝すべきだ。彼らの協力がなければ事態の好転は望めなかった」と述べた。

「政府よ、傲慢な態度をやめなさい。あなたの主人である数百万人の武漢市民に謝罪を!」と政府の姿勢を厳しく糾弾した。

湖北省作家協会の元主席である方方氏は1月23日、武漢市が都市封鎖措置を講じた後、日記を自身のブログで公開した。日々の雑感を記録するとともに、当局の情報隠蔽を舌鋒鋭く追及していた。自身の中学時代の親友が感染し亡くなった日に「悪人の一味を厳罰しなければ市民の怒りを鎮めることはできない」と憤慨していた。

中国紙「南方週末」の褚朝新記者も6日の文章で、「武漢市民に少しでも愛情があれば、今の時点で感謝を求めないだろう」と述べた。

「大難に見舞われた武漢市民はまだ恐怖の真っ只中にいる」「今の武漢市民に必要なのは食料品であり、感謝教育ではない」「今、武漢市民に必要なのは事実を隠蔽した政府幹部の謝罪であって、感謝に対する強要ではない」

さらに3月5日、中国の孫春蘭・副首相が武漢市内の住宅団地を視察した際、「すべてがウソだ」と叫んだ住民についても言及した。

「これが民意であり、現実だ」と政府の対応に対する市民の根強い不満を代弁した。

市民の不満が高まることを受け、政府は関連報道を取り下げた。

ネット上では国務院新聞弁公室が「感謝教育」の報道を取り下げるよう指示したとの情報があった。リークされた内部会議の議事録では、「報道に世論が強く反発した。この勢いは某医師が死去した際の市民感情と似ている」と記されている。同弁公室は、最高指導部の指示の下で、関連記事の掲載を禁止にした。議事録は「国内外の宣伝はすべて(中央政府の)指示に従いなさい」と強調した。

8日の地元紙「湖北日報」は、同日に省トップの応勇・省党委員会書記が「武漢市は英雄の町で、武漢市民はみな英雄である。(中略)私は武漢市民の皆さんと、湖北省の住民の皆さんに心から感謝したいです」と態度を一転させたと報じた。

中国SNS上にリークされた国務院新聞弁公室の議事録(ネット写真)

 

(翻訳編集・張哲)

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