10月20日に行われた香港大型デモで、化学物質の含まれる青い水を発射する警察車両と、逃げるデモ参加者(GettyImages)

記者にジュースとお菓子をプレゼント 香港デモ平和・理知派の動き

香港の民主運動では、警察による催涙弾や高圧放水といった、デモの強制制御がたびたび伝えられている。こうした威圧的な行為による鎮圧にも関わらず、参加者たちは2014年の雨傘運動による分裂と大衆の不支持を教訓に「非暴力と平和的」をモットーに掲げ、デモ参加者へ団結と平静さの維持を呼び掛けている。

最新の大型デモが行われた10月20日、香港民主派組織・民間人権陣線(民陣)の代理として民主派の4議員が警察へデモの許可申請をした。しかし、警察は「騒動の激化」を理由に却下した。4議員は個人としてのデモ主催敢行を表明した。民陣の呼びかけ人である岑子杰氏(32)が16日に暴徒の襲撃に遭い、この申請却下も相まって、デモ参加者はさらに抗議の意向を強め、当日は35万人相当が行進に加わった。

民陣は20日のデモについて、尖沙咀ソールズベリー公園から高速鉄道の西九龍駅までを行進距離と定めた。午後、出発地点である公園では、デモ隊のテーマソングとなった「香港に栄光あれ(願榮光歸香港)」を歌ったり、「香港人は抵抗する」などのスローガンを掛け合ったりした。

デモに先立ち、林鄭長官は緊急法を発動して「覆面禁止法」を施行した。にもかかわらず、大型のお面を被る参加者が多数見られた。匿名性を象徴するハッカー集団・アノニマスの仮面、中国習近平主席の顔・くまのプーさんの面を付けた人々もいた。

ソーシャルサイトに出回った動画によると、デモ隊が警察署の入る高層ビル郡に差し掛かると、警察は大通りに催涙弾を発射した。デモ隊で最前線に立つ「勇武派」は、慣れた動きで、催涙ガスを中和させる化学物質の入った液体を催涙弾にかけたり、警察隊に投げ返したりした。

4カ月続くデモには、香港市民の老若男女が参加している。しかし、前線に立ち暴力に反抗する「勇武派」の多数は若者で、逮捕者も多い。香港政府は10月20日の記者会見で、この6月以降続くデモにより、警察が逮捕したデモ参加者は2379人で、このうち750人(31.5%)は18歳以下、16歳以下の少年少女も104人いると発表した。

香港政府が覆面禁止法を施行後も、マスクを着用してデモに参加する若者。10月20日撮影(Getty Images)

デモ参加者たちは、著名な映画俳優ブルース・リーの名句「Be Water(水になる)」を合言葉にしている。状況に応じた柔軟性と流動性を維持せよとの意味だ。必要な時に速やかに集まり、危険な場合は直ちに散る。全員は匿名であり、身分は明かされないが連帯している。この名句をテーマに、香港では民主デモを応援する目的で匿名のアーティストにより作成されたイラストには、次のように表現されている。「水のように流れ、氷のように硬く連結し、露のように集まり、霧のように散る」

デモ隊は流動性を維持しつつも、役割分担し、組織的に警察の暴力的な行動に対応している。主に大学生などの若者で編成された前線部隊「勇武派」はヘルメットとガスマスク、傘を備え、警察が放った催涙弾を投げ返したり、催涙ガスの噴出を弱める液体をかけたりする。これに対して穏健派である「和理非派」がいる。平和・理性・非暴力の頭文字を取った名前だ。しかし、「勇武派」とは対立せず、互いを「手足(兄弟)」と呼び合い、分裂につながる批判の応酬をせず、互いに団結することが重要だと繰り返し強調している。「和理非派」には、勇武派が警察の鎮圧に誘発されて暴徒にならないよう、興奮した参加者をなだめたり、水やお菓子を差し出したりする。他にも、負傷者を救護する係がいる。

最前線に立つ「勇武派」は、管理する個人情報のターゲットとしてマークされる場合が多い。警察は黒い服をユニフォームにした若者の動きを抑制するために、デモ行進でない平時にも、街中で尋問したり、荷物検査を行っている。若者を支持する市民は、若者たちが「危険な目にさらされている」として、着替えの服を地下鉄(MTR)の出入り口に用意したり、移動記録が収集される電子マネー・オクトパスを使わなくても、MTRの切符が買えるよう、切符売り場に小銭を置いたりしている。

水の如く

ブルース・リーの名句「水の如く」をテーマにした匿名のアーティストによるイラスト。「水のように流れ、氷のように硬く連結し、露のように集まり、霧のように散る」(Instagram)

デモ隊に紛れた警察官とみられる「ニセ・デモ隊」の情報が、民主派の回覧する情報に出回っている。彼らは、信号機や建物のガラスを破壊したり、警察隊に火炎瓶を投げ込んだりする。服装には、靴の裏側が白い、カバンの後ろにライトを付けていることなどの特徴がある。これらのニセ・デモ隊は「暴徒化」をあおり、暴力行為を誘発して、警察による武力鎮圧を正当化する狙いがあると、デモ参加者のグループチャットで分析されている。

実際に、興奮により暴力行為に加わってしまうデモ参加者もいる。同グループチャットでは、「非暴力を貫こう。暴徒は私たちの仲間ではないよ」と、デモ参加者はオンラインで平静を呼び掛けている。

香港市民の間では、政府および警察に対する信頼度が失墜している。ブルームバーグは20日までに、有志の医療チームに加わる研修医の女性を取材した。彼女によると、「負傷したデモ参加者は公立病院に行くことを避けるために、ケガを隠している。公立病院は政府の管理下にあり、多くの負傷者が病院で連行されている」という。「政府の(負傷者数の)発表は正しくない。もっと多くの人々がケガを負っている」「重篤なケガを負った人もいる」と述べた。女性は有志で、ケガ人の手当てにあたっている。

警察は、高圧放水車を出動させた。刺激物質の混じった青い水は、およそ一世紀前に建てられたキリスト教会、イスラム教の礼拝堂(モスク)、寺院にまでかかった。大紀元の取材に応じた香港インド協会元主席のモハン・チュガニ(Mohan Chugani)氏は礼拝日に集まった信者までも放水の被害にあったと訴え、「香港警察を信用できない」「まるで法治がないかのようだ」と怒りの声を上げた。デモ参加者のなかの有志者が同日中に建物の清掃を行った。22日には香港イスラム委員会が「善良な香港市民に感謝申し上げる」とネット上で声明を発表した。

多くのデモ隊は、ジャーナリストや報道陣に友好的だ。VOAの黄記者は20日のデモで、壮年の女性から「記者さん、ありがとう」との言葉掛けとともに、ミネラルウォーターがプレゼントされたという。別の通りでは、15歳ほどの若いデモ参加者がジュースとお菓子を記者に渡し、お辞儀したという。

デモの長期化により、香港警察にも疲労の色が見える。毎度のデモ鎮圧では市民の強い反発にあい、「勇武派」の応酬にも直面する。いらだちは無用な暴力を生み、市民と警察の関係は修復される兆しが見えない。

香港立法会(議会)では24日、4カ月にわたる抗議活動のきっかけとなった容疑者の本土引き渡し条例の改正案の正式撤回案を可決し、政府が受理した。しかし、民主派のグループチャットの意見では、「五大要求」の全部成立を求め、民主運動を継続するとの意向を表明している。

(翻訳編集・佐渡道世)

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