「良い話を伝えよ」中国共産党が外国メディアを取り込み海外世論工作
中国共産党政府は数十億米ドルをかけて、対外浸透工作を続けている。その一つに、海外メディアに対する工作がある。海外での中国官製メディアの影響拡大と同時に、海外メディアの共産党政権への批判を抑え、報道の自由にダメージを与えている。
海外メディアの浸透工作の一つに、中国外務省は「中国について良い話を伝えるように」とメディアに対して公に求めていることが知られている。2014年1月、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムに出席した王毅外相は、会期中に中国メディアに対する記者会見で、「中国の良い話を伝えるように。世界で最も成功した国の話は世界の利益になる」と指南した。
中国国営メディアは、特にアフリカや東アジアにおいて、影響力の拡大に力を入れている。2014年には中国アフリカプレスセンターが設置され、2018年までに中国南アジアプレスセンター(CSAPC)と中国東南アジアプレスセンター(CSEAPC)が立ち上がった。中国外務省と中国公共外交協会が運営している。
米シンクタンクのブルッキングス研究所のブルッキングス・インディア客員研究員で元インド紙インディア・トゥディ記者アナンス・クリスナン氏は2018年11月、海外ジャーナリストを対象とする中国当局主催の10カ月トレーニングプログラムについて分析記事を同研究所で発表した。
10カ月間で、ジャーナリストたちは中国語、中国政治と経済などを学ぶ。政府関係者や企業幹部と面会し、大型イベントなどの取材を行うほか、中国メディアのインターンシップにも参加する。
クリスナン氏によると、訓練に参加したあるインドの特派員は、この取り組みは報道の質に影響を与え、利益相反行為にあたる恐れがあると懸念していた。いっぽう、トレーニングに参加していない多くのジャーナリストは、単独で報道に取り組むことは非常にコストがかかるが、中国当局からふんだんな資金を受け取る受講者は不公平だと考えていたという。
トレーニング中、記者たちは単独で中国の地方を取材することは許可されていない。チベット、ウイグル自治区には当局者の同意で入域できるが、現地の人権侵害問題などについて報道することは許可されなかったという。
東南アジアの国からのある記者は、中国当局から南シナ海問題については報道してはならないとの通知があったという。
中国公共外交協会の胡正躍副会長は2017年、中国の期待感は記者の手から伝わると述べた。「アフリカとアジアの記者は中国と各国との協力に注意を払い、特に一帯一路に重点を置くべきだ」と同氏は述べた。
海外からのジャーナリストたちは、北京市の高級市街・建国門外外交公寓にある家賃約2万2000元(約35万円)のマンション一室が与えられ、毎月5000元(約8万円)の奨励金を受け取る。さらに、月2回の中国国内の地方への視察がある。コース終了後は、中国国内の大学の国際関係学の学位を取得できるという。
2019年3月、NGO国境なき記者団は「メディア新秩序を追求する中国」と題したレポートを発表した。中国当局は政治的な影響力を使い海外メディアの報道の自由を脅かしているとの報告だ。それによると、少なくとも146カ国3400人以上のメディア関係者が中国政府支援で何らかの情報伝達に関わる「トレーニング」を受けている。
香港メディアプロジェクトの共同代表デビッド・バンドルスキー氏は、中国によるこうした海外メディア記者への「トレーニング」目的は、対外中国イメージの美化のみならず、体制の正当性を維持し、その説明を強化するためだと指摘した。
中国官製・新華社通信によると、2020年までに海外に200の支局を設立することを計画している。
(編集・佐渡道世)