2016年、内モンゴルの希少類採掘と開発地域を歩く女性(Getty Images)

米中戦の駒「中国レアアース規制」中国資源依存から脱却急がれる

世界の二大経済国の貿易戦争が激しさを増している中、中国が、レアアース希土類)の輸出制限を行い、米国に反撃するとの見方が出ている。レアアースはスマートフォン、電気自動車(EV)などの消費財から、軍用機にいたるまで高い需要のある資源。しかし、専門家らは、米中のみならず世界産業に大きな影響をもたらすレアアース規制が行われる可能性は低いと見ている。

中国中央政府はこれまでのところ、米国へのレアアース輸出制限を明言していない。しかし、官製メディア・環球時報英字版の胡錫進・編集長は28日、SNSで「中国は駒の一つとして真剣に検討する」と警告した。同日、中国国家発展改革委員会(NDRC、発改委)高官は、レアアースは国内需要を優先する方針を表明した。

レアアースは、電気自動車、スマートフォン、風力タービン、衛星、ミサイル、半導体チップなどの主要技術の重要な部品の製造に使用される17の要素のグループ。これらの金属は精密誘導兵器、通信機器、ジェットエンジン、バッテリー、その他の防衛用電子機器に使用されているため、防衛分野でも重要となっている。

米中貿易戦が過熱するなか、習近平主席は先週、江西省贛州市の希土類企業・金力用磁を訪問した。これにより、対米輸出制限措置の憶測が広まった。

米国は1980年代まで希土類元素の最大の生産国だった。しかし、コストと環境への懸念、そして安価な中国産レアアースとの競争で、過去数十年の間に多くの工場が閉鎖された。

現在、米国はレアアースは輸入に依存している。中国新華社通信によれば、米国はレアアースの78%を中国から輸入している。

カリフォルニア州マウンテン・パス鉱山には、米国唯一の操業中の採掘施設がある。レアアースは精製のために中国に輸送している。

シカゴ拠点シンクタンク、ハートランド研究所リチャード・トルズペック氏は、中国のレアアースにおける優位性は、米国にとって大きな脅威とした。

トルズペック氏によると、中国がレアアース禁輸を決定すれば、米中双方の経済のみならず、先進国全体の産業を窮状に追い込むという。このため、輸出規制などの可能性は示唆するも、実際には講じる可能性は低いとみている。

ワシントンを拠点とするシンクタンク・ピーターソン国際経済研究所の上級顧問ジェフリー・スコット氏は、数年前に世界貿易機関(WTO)により提訴され、レアアース制限の解除を経験しているため、2度も国際的な影響を出す輸出制限を実施することは考えにくいとした。

清華大学政治学科の元講師呉強氏は、中国当局がレアアース禁輸措置を講じれば、中国と米国の間のサプライチェーンの分離を加速させ、さらなる貿易戦の深刻化に繋がると指摘する。

米通商代表は、中国製品約3000億ドルに対する最大25%の追加関税で、レアアースを除外した。ロイター通信は、中国資源依存が浮彫になったと報道。同取材に答えたコンサル企業幹部は「レアアースが米産業・防衛に重要であり、短期の代替調達先はない」と危機感を募らせた。

米国防総省はこうしたレアアースの中国依存について動きをみせている。5月29日、レアアースに関する報告書について議会に説明した。詳細は示されていないが、中国依存の軽減や、国内生産能力の押し上げに関するものだという。

5月中旬、米テキサス州のブルーライン社は、オーストラリアのライナスと、米国でレアアース精製施設を建設する覚書を交わしたと発表した。

2018年8月13日、トランプ大統領は2019会計年度のジョン・マケイン国防権限法(NDAA)案に署名した。新法第871条では、米国国防総省が中国、ロシア、イラン、北朝鮮から希土類磁石を購入することを禁止している。

さらに、米国上院は、国内の希土類生産に経済支援を与える法案を可決した。米国の多くの廃棄物リサイクル会社もまた、使用済み製品からより効率的に希土類金属を回収するために、新しい技術を積極的に開発している。

レアアースの世界埋蔵量の37%は中国にあるとされるが、ほかにも米国、インド、南アフリカ、カナダ、オーストラリア、ブラジル、マレーシアでも、採掘可能な希土類資源がある。

(編集・佐渡道世)

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