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令和 国民文化としての新元号

日本は新たなる元号を、その時代とともに迎えた。

年号という言い方もあって、古来ほぼ同義とされてきたが、日本では、明治の御世から一世一元が定まったため、元号というのが通例である。

中国においては明代から一世一元となったので、わずかに例外はあるものの、明の太祖・洪武帝から清朝最後の宣統帝まで、六百年ちかくこの制度は続く。例外とは、明の英宗が2度即位したことと、清の太宗がその治世のなかで二つの元号をもったことをいう。もちろん一世一元ではない元号は、前漢の武帝のころ(紀元前140年)から存在する。

今日の大陸中国では、元号に相当するものはない。西暦の数字を記号化したように2019(アルリンイージュウ)と無感情に棒読みするだけである。確かに西暦は機能的で、はてあれは何年前だったかなと記憶をたどるときなど、日常的に使うには便利であろう。しかし、字義をもたない数字による西暦は、便利さ以上のもの(例えば、理念や連帯感)にはなり得ない。

西暦は、イエス・キリストが生まれた(とされる)翌年を元年として現代まで、2千余年の時を刻んできた。西欧諸国による植民地化によって世界各地にキリスト教が広まった結果、信者であるか否かに関わらずキリスト紀元が使われ、今では日本でも西暦主流になったかのような印象を受ける。

それも必然からきた結果であれば、あえて否定することはない。今後、日本に居住する外国人が増えることも一つの必然であるなら、その新しい隣人に元号で生年月日の記入を求める必要はないだろう。

ただ、日本の元号は、日本国民が今後も大切にすべき文化だと考える。

30年前の1月。平成は、先の陛下の崩御という沈痛のなかで始まった。そこには昭和という激動の時代を回顧する日本人それぞれの思いがあり、そこを懸命に生きた自身や家族の歴史があって、多くの国民はただ瞑目して静かに日常を過ごした。私事ながら、筆者はそれを留学先である中国の地方都市で、祖国に思いを馳せながら短波ラジオで聞いた。

平成もまた、多くの自然災害と原発事故という大きな苦難を経験した。

今年2月24日に行われた在位30周年の記念式典において、陛下は「私がこれまで果たすべき務めを果たしてこられたのは、その統合の象徴であることに、誇りと喜びをもつことのできるこの国の人々の存在と、過去から今に至る長い年月に、日本人がつくり上げてきた、この国の持つ民度のお陰でした」と述べられている。

あの国難級の大災害に遭って、なお略奪も暴動も起こさず、助け合い、正常な社会秩序を維持した日本人は、まさに人類史の奇跡を生み出したといって過言ではない。

日本人にしてみれば当然のことであっても、諸外国は驚きと賞賛の声をもって受け止めた。民度とは、非常時にこそ、その高低が見えるものである。だとすれば、陛下のお言葉を銘記するまでもなく、わが日本国民は、遠く未来に至るまでこれを保ち、いささかも低下させてはならない。

日本人にとって、時代と元号は実質的に同義語といってよい。

この国には、昭和を生き抜き、平成をつくった人々の歴史があった。そして次の令和を拓いてゆく、若い人々の新しい未来がある。2020年には東京オリンピック、同パラリンピックが実施され、おそらく感動的なスポーツの祭典になると信じているが、それは西暦のなかの1年であって「時代」にはなり得ない。

文化という言葉は、現代において、とんでもない意味にまで濫用されている。

その漢語の原義は、多くの人々の教養を豊かにし、行動を正し、善なる方向へ導いてゆく大きなムーブメント、すなわち「文化とは人間を善良に教化する営み」であり、その他のことではない。

いま国民の一人ひとりが、新元号を自身が担うべき「時代」と受け止めて、それぞれの場所で努力することを心静かに決意するならば、現代世界において、日本に元号が存在することの意義を明示することができるだろう。

先の4月1日、多くの国民の言祝ぎ(ことほぎ)と熱狂のなか新元号「令和」が発表された。日本各地のようすを伝えるテレビの画面には、感激のあまり涙ぐむ人の姿さえ見られたが、それは単に、初めて中国の古典を離れて、国書である『万葉集』から採ったからということではない。そこにあるのは、「さあ、令和の時代を、皆で頑張ろう」という日本人の心の連帯による喜びであった。

そうした意味において、日本の新元号は、文化の原義をみごとに具現したと言えよう。

(牧)

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