流行の「自分のルーツ探し」DNA解析サービス、遺伝子情報が中国当局に渡る可能性=米専門家
スティーブン・モッシャー(Steven W.Mosher)人口研究所会長はこのたび、大紀元英字版に寄稿し、中国共産党が国内外でDNAの収集を行っており、米国で流行する「あなたのルーツを知る」と銘打って広告されているDNA検査サービスは、遺伝子情報が中国企業に渡り、共産党政府が入手する危険性があるという。下記は寄稿文の抄訳。
米国のバイオテクノロジー企業の買収から初めて、専制政治国家の中国は、海外でも人のDNAを収集するためにさまざまな手段をとっている。
例えば、世界大手DNA解析企業で中国国営・北京遺伝子研究所(Beijing Genomic Institute、BGI)は、同業の米大手コンプリート・ゲノミクス(Complete Genomics)を買収し、数千万人の米国人DNAを管理する同社データベースにアクセスするようになった。
しかし、この買収工作は、中国共産党政権によるDNA計画の始まりに過ぎない。2019年2月14日に発表された、米中経済安全保障審査委員会(USCC)の中国バイオテクノロジーに関する報告によると、北京遺伝子研究所は「米国の医療機関や研究機関との間で多数のパートナーシップを結んできた。大規模な遺伝子研究と医学研究活動に影響を与えるためだ」と記した。
このように、米国の技術力を入手した北京遺伝子研究所は、ファーウェイ(華為、HUAWEI)のように、政府から補助金を受けて運営している。このため、遺伝子解析、臨床データの保存サービスなどを安価で提供できる。
北京遺伝子研究所のサービス提供価格は際立って安いかもしれないが、代償は高くつくだろう。USCCの報告によれば、北京遺伝子研究所はその見返りとして、「米国内の人々の臨床データ、遺伝子配列データへのアクセス」を行うようになった。これは、米国の多種多様な生物研究プロジェクトからデータを収集しているということだ。
北京遺伝子研究所は、おそらく、現存する他のどんな大きな米国企業よりも、米国人に関する詳細なデータベースを作成しているかもしれない。さらに北京遺伝子研究所に加えて、USCCは、米国では現在、遺伝子診断に全ゲノム解析を含む他の遺伝子を検査することが認められた、中国関連の23企業を特定している。
これらの企業は、「個々の患者の遺伝データにアクセス」して、米国の病院、クリニック、商用DNA検査企業も、DNAサンプルを中国本土に解析のために送っている。
中国はすでに自国民の数千万人分のDNAを収集し分析している。これらのことを考えると、中国の遺伝子関連市場は他のどの国も匹敵できない規模の経済規模がある。
流行の「あなたのルーツをたどる」DNA解析サービス
2018年のクリスマス、米国では最も人気のあるプレゼントとして、「あなたの先祖を知る」というDNA解析結果を送付するサービスが流行した。テレビ番組やコマーシャルで、自分の祖先の軌跡を辿る遺伝子検査の広告が出された。検査費用は1万円程度で、インターネットで申し込めた。
唾液サンプルを検査企業に送ると、自分のDNA検査結果が返ってくる。人種の構成や国籍ごとの割合がパーセント表示されたものだ。報道によると、全体で1200万人以上の米国人が彼らの祖先の系統を発見するために、商用DNA検査企業によって唾液サンプルからのDNAが集められた。
自分の民族的なアイデンティティや、遠い祖先について知ることができるのは、興味のあることではある。例えば政治利用する場合もある。大統領候補者が、ほんのわずかでも自分の血統に「先住民族の祖先」が入っていることを主張するかもしれない。
これらのことはさておき、「先祖を知る」サービスの一番の欠点は、個人が一番秘密裏にしておくべき遺伝子配列が、中国企業に渡ってしまうという危険性だ。
誰が進んで中国共産党主導の大規模DNA収集計画に協力したいと思うだろうか。
私は、大手DNA検査会社であるマイ・ヘリテージ(MyHeritage)、アンセストリーDNA(AncestryDNA)と23アンド・ミー(23andMe)に、収集したサンプルはどこで解析されているのかを尋ねた。
マイ・ヘリテージは「DNAの抽出とサンプル処理を担当する研究施設は米国テキサス州にある」と述べた。アンセストリーDNAは、「ユタ州やその他の国」とした。その国がどこであるかは明かされなかった。23アンド・ミーは返答がなかった。
私が警告したいのは、商用DNA検査サービスに自身のDNAサンプルを送った人はこれ以上、ほかの機関に自らの遺伝子情報を開示しないよう忠告する。
なぜなら中国企業ウィージーン(WeGene)は積極的に、「あなたの祖先」に関するDNA分析結果をウェブサイトにアップロードするよう求めている。
ユーザー契約によると「必要に応じて中国当局に情報を提供する」とある。中国当局が、民間企業が所有するデータベースに自由にアクセスすることは疑いの余地はない。2015年の国家安全保障法や2016年サイバーセキュリティ法などから、官民問わず中国企業は当局に情報協力することが義務付けられている。
共産党政権の管理下にある中国企業と、米国企業がパートナー契約してプライバシー保護条約を記載したとしても、無意味である。
すべての中国のハイテク企業、特に「中国製造2025」計画で特定された11のハイテク分野である1.次世代情報通信技術 2.先端デジタル制御工作機械とロボット 3.航空・宇宙設備 4.海洋建設機械・ハイテク船舶 5先進軌道交通設備 6.省エネ・新エネルギー自動車 7.電力設備 8.農薬用機械設備 9.新材料 10.バイオ医薬・高性能医療器械に関連する企業は、国営であろうと民間であろうと関係なく、共産党政策と密接に関係している。
米国の健康情報のプライバシーを保護する法律は、遺伝子やDNAに関しては脆弱だ。USCCの報告でも指摘している。「先祖を知るDNA解析サービスは、消費者サービスであり、医療ではない。データの取り扱いは『医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(HIPAA)』に含まれない。個人情報と情報セキュリティの懸念がある」
米国は、市民の遺伝的プライバシーを保護するために対応する必要がある。第一に中国における米国人のDNA検査を禁止すること、そして米国の遺伝子情報を他国に送付することを禁止することだ。遺伝子情報の保護をおろそかにすれば、国家の安全保障問題につながりかねない。
スティーブン・モッシャー(Steven W.Mosher)
人口研究所代表。『アジアのいじめっこ:中国夢は世界秩序への新たな脅威』(2017.11)著者。モッシャー氏は、スタンフォード大学で著名な遺伝学者ルイージ・カバリ・スフィルツァ(Luigi Cavalli-Sforza)のもとで生物学を学んだ。
(翻訳編集・佐渡道世)