GettyImages

【子どもに聞かせたい昔話】トラと旅人

昔々、森の中に一匹のトラが暮らしていました。年を取り、もう自分で獲物を捕ることもできませんでした。ある日、トラは、湖のほとりで金の腕輪を見つけました。

「この腕輪を使えば獲物が捕れるかもしれない…」と思い巡らしていると、ちょうど一人の旅人が湖の反対側から歩いて来ました。「うまそうな奴がやって来たぞ!」とトラはその旅人を仕留めようと思いました。そして金の腕輪を旅人に見せながら言いました。「おーい、旅のお方。この腕輪がしくないかい。こっちに来んかね? さっき拾ったんじゃが、わしが持っていても宝の持ち腐れじゃろう」

旅人は腕輪が欲しいと思いましたが、トラに近づくのをためらいました。そこで用心してトラにたずねました。「うまいことを言っているが、私をつかまえて食べてしまうつもりだろう?」

するとトラは、とぼけて言いました。「まあまあ、お聞きなさいよ。わしも若いころはずいぶん悪さをしたもんじゃった。だがな、ある聖人に出会ってな、悪いことはやめたんじゃよ。食べさせなきゃならんような家族もおらんしな。それにじいさんじゃ、歯も抜けとるし、爪はボロボロだ。こんなわしを、もう誰も怖がらんぞ」

ためらっていた旅人は、光輝く金の腕輪に目がくらみ、トラの嘘にまんまと乗せられてしまいました。湖に飛び込みトラの方へ近づいていくと、トラのもくろみ通り、旅人はぬかるみにはまって身動きがとれなくなりました。トラは「心配はいらない。いま助けに行くから待っておれよ」と言いながらそろそろと近づいて、ついに旅人をくわえました。

岸の上に引きずられながら旅人は「ああ。聖人のような言葉にすっかりだまされてしまった。結局トラはトラだった。理性が欲を抑えていれば、命を落とすはめにはならなかった」となげきましたが、手遅れでした。旅人はトラに食べられてしまいました。

旅人は自分の欲の犠牲になり、トラの計略を阻むことができませんでした。

(Ancient Tales of Wisdomより)(翻訳編集・緒川)

おすすめ関連記事:【子どもに聞かせたい昔話】石工と山の精霊

関連記事
内なる不満を見つめ、愛を与える方法を通じて、心の癒しと新たな可能性を見出すヒントをご紹介します。
最新研究が脳損傷患者の意識の可能性を示し、医療や家族の対応に新たな光を当てます。
GoogleのAI「Gemini」が大学院生に不適切な発言をし、AI技術のリスクが改めて問題視された。企業の責任が問われる中、AIの安全性や倫理が注目されている。類似の事例も増え、技術の普及とリスクのバランスが課題となっている
健康な心血管を保つための食事、指圧、運動の実践方法を解説。心臓病予防のヒントが満載です!
専門医が語る乳がんリスクの主な要因と予防のポイントを解説。生活習慣の見直しで健康を守りましょう。