曽錚コラム:北京大大学院卒なのに「チベット問題」何も知らず 講演で赤っ恥。チベット民族舞踊を踊る作者(作者提供)

曽錚コラム:北京大大学院卒なのに「チベット問題」何も知らず 講演で赤っ恥

この「残念な」写真は私が中学校に上がったころのものだ。この時のカメラマンはとても手際が悪く、私たちが踊っている間のいいショットを逃すわ、踊り終えてから私たちにポーズを指示するわで、いつまでたってもいい写真が取れなかった。イライラしてポーズを取るのをやめてしまった子もいる中、3人だけはまだ頑張っていたが、そのうち2人の顔は苦痛でゆがんでいた。その1人が、後列にいた私だ。

私たちが踊っていたのはチベット舞踊で、共産党が「チベット農奴」を解放したことに感謝し、その偉業を称えるという内容だった。30年以上にわたってこの踊りに使われた歌や、その他数多くの共産党の「偉大・光栄・正義」を宣伝する歌が私の中に深く刻み込つけられている。これらが記憶の底からいつなんどき飛び出してくるか、自分でもわからないくらいに。

私がチベットについて、いかに誤った知識しか持っていなかったかに気づかされたのは、35歳といういい年になってからだった。しかも、非常に恥ずかしい思いをして。

2001年の世界人権デーに、オーストラリア・メルボルンで人権に関するフォーラムが開催された。そこに招待された私は、法輪功を学習したことを理由に中国当局から労教所(強制労働収容所)に送られ、非人間的な迫害を受けたことを語った。話し終えて質疑応答に入ると、こんな質問を受けた。「チベットの状況についてどんなことをご存知ですか?チベット人も同様の迫害を受けているのでしょうか?」

私は瞬時に、頭の中でチベットに関するありったけの知識を総動員した。だが、共産党賛美の歌と教科書で読んだ「中共がチベットを解放した」という宣伝文句以外、何も浮かんではこなかった。当時、私は中国から逃げてきて数カ月しかたっていなかったうえ、毎日本の執筆に追われて、あまりネットを使う時間もなかったため、中国国内での常識しか持ち合わせていなかったのだ。

労教所で九死に一生を得た私は、中国当局が法輪功に関する事実無根のデマを流していることを、身をもって知っている。だから、中国国内で語られているチベットに関する全てのことが、中共のねつ造だということは容易に想像できた。だがそれだけだ。みなに伝えるべきチベットの真実を、私は知らない。このときの恥ずかしさといったらなかった。人々の眼が私に注がれ、私が何か言うのを待っている。私は顔を赤くして「チベットについて、私は何も知らないのです」と答えるしかなかった。北京大学大学院を卒業し、自分は学歴が高く優秀なのだとうぬぼれていた私の鼻が、ぽきんと折れた瞬間だった。

帰宅すると私は、すぐにチベットに関する情報を検索した。そしてようやく分かった。ああ、中国の共産党政権が、あんなにたくさんのチベット人を殺していたなんて!

 

2日前に私は、ニューヨーク市立大学スタテンアイランド校の夏明教授のスレッドを見ていた。そこには、中国の大学の国際政治系で8年間の教育を受け、3年間講義も行った経験があったが、第二次世界大戦で米国がどれだけの犠牲を払い、どれほど貢献したかということ、そして硫黄島の戦いの重要性について米国に来て初めて理解し、自分の無知を恥じたと記されていた。

中国の共産党政権はこれまで、中国や中国人に対し、どれだけ危害を加えてきたのだろうか。文字や教科書から、小学生の民族舞踊や国営テレビの華やかな年過し番組まで、中国人が目にするものすべてが、中国共産党の思惑通りに作られている。これらはみな、党の必要性に沿ってでっちあげられた虚構だ。

これらにどっぷり浸っていると、人々は操り人形のように動くようになる。人々は自分で考えて行動しているつもりでも、その行動パターンは党に刷り込まれた条件反射にすぎないのだ。もし中国共産党が明日崩壊したとしても、私たちの中にはこうした共産党的思考パターンが滓のように溜まったままだ。その滓を洗い切るには、いったいどれだけの時間が必要なのだろうか。

(翻訳編集・島津彰浩)

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