登校するのも命懸け

通学路は高さ800mの断崖絶壁! 四川省阿土勒尔村の子供たち

米国のラジオネットワーク、ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)記者、アンソニー・カー氏が9月25日、自身が取材した中国の「断崖村」に住む子供たちの、想像を絶する登下校の様子を発表した。

中国メディアの報道により、中国では「断崖村」の呼称が広がったが、村の正式名称は阿土勒尔村(アトゥラール村)。同記者は現地取材中、子供たちの「通学路」を実際に体験した。以下は、同氏によるレポートの抄訳。

 

(ネット画像)

 「断崖村」への出入りも命がけ、落下死亡事故も!

四川省涼山彝族(イ族)自治州の昭覚県アトゥラール村は、同省の省都、成都市から車で8時間の山奥にあり、72世帯が、標高約1400メートルの傾斜した高台に暮らしている。崖下の町から村までの高さは約800メートルで、村民は外出の際、植物のつるで編まれた17本のはしごを使って断崖を上り下りしなければならない。中でも、村に近い部分の険しい断崖にほぼ垂直にかけられた2本のはしごは、合わせて100メートルもの長さになる。崖下から村へと上る場合の所要時間は2時間から4時間。地元住民によるとけが人は絶えず、ここ数年間で落下事故により村民や来訪者ら7~8人が死亡しているという。

村のある山頂の高台は、トウモロコシ畑と昔ながらの泥レンガの家屋が建っており、周囲を見渡すと、霧の立ち込める山々が広がっている。記者はここで、莫色(モス)さんという農家の家に泊まることになった。近隣の町で建築関係の仕事に就いている若い村民は「何をするにも町は便利だ。村では買いたいものも手に入らない」と町の生活へのあこがれを語った。村人は家畜を飼い、トウモロコシやジャガイモなどを植えてはいるが、まわりが断崖になっているため持ち出しは困難で売ることもできず、自分たちで食べたりするしかない。

 梯子をつたい800mの断崖を下り、登校する子供たち

記者が村を訪れた翌日、新学期が始まった。早朝から十数人の子供たちとその保護者がはしごのところに集まり、一緒に下山する準備をしていた。子供たちが山を上り下りするたびに、保護者が交代で子供に付き添っているのだ。

1950年代においてもまだ奴隷制度を維持していたイ族は、中国政府が公認する56の少数民族のうち、現在7番目に人口の多い民族だが、2000年の国勢調査によると、15歳以上のイ族の識字率は75%にとどまっており、昭覚県に至っては、識字率は60%とさらに低いことが明らかになっている。

アトゥール村では、6歳から15歳まで合計15人の子供たちが崖下の小学校に通っているが、平日は学校に併設された寮で暮らし、週末ごとに山頂の自宅へ帰宅している。だが、今年6月にマスコミが「断崖村」を取材、報道してから、現地当局が子供たちの帰宅回数を減らしたという。ある13歳の女の子は今年、4年生に上がったばかり。はしごを一人で上り下りできるようになるまで、父母が入学を許さなかったからだ。「家を離れるのは辛いけど、学校が始まったのは嬉しい!」と、学校に行ける喜びを隠せない。

登校する子供たちとその親の一行が、列をなして崖を降りてゆく。子供たちはリュックを背負い、小さな子供の親たちは、自分の身体と子供の身体を縄でつないでいる。ここの子どもたちは、すでに数えきれないほどこの道を行き来してきたのである。

3時間後、一行はようやく町の学校に到着した。マスコミが「断崖村」を報道してから、学校へお金や品物の寄付が寄せられるようになったため、校長は、これらの寄付のお陰で、さらに50~60人の子供たちを受け入れることができたと喜びを語っている。現在のところ、学校では1年生から4年生まで合計250人の子供たちが学んでいる。

現地の学校関係当局は山頂までの道の段階的な建設を計画していると言ってはいるものの、いまだ具体的なスケジュールは示されていない。子供たちが今の状況から抜け出すにはもう少し時間がかかりそうだ。

 移住しても解決できない問題

上海在住のイ族出身の評論家の傅家傑氏は、アトゥラール村の生活条件は30年前と比較すると大きく変化したものの、彼らは基本的にはまだ近代化以前の社会に生きており、その生活水準は他地域と比べて数十年も遅れていると述べている。中国政府はイ族も含め一部の少数民族に対し他地域への移住政策を推進しているが、移住したとしても新しい環境の中での生活は言語の障害や生活技能がないため暮らしは決して楽なものにはならないという。また他の地域に移住した人々の中に犯罪に手を染めたり麻薬に溺れたりする者が後を絶たず、結局はまた、山奥の故郷へ舞い戻ることも珍しくはない。

 

(翻訳編集・島津彰浩)

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