雷洋事件

中国の警察官の職権乱用 殺人さえも「合法的」

北京の一市民が、警察に拘束されてからわずか1時間後に暴行により死亡するという「雷洋事件」が発生してから、中国国内では職権を盾に非道の限りを尽くす中国の警察官に対する批判の声が日増しに高まっている。ネット上では20数年前に起きた、警察が新任副省長に手錠を掛け平手打ちした事件が引き合いに出されているが、そこには昔から権力を笠にして暴挙を重ねる警察官の様子が描写されている。

 不公平だと漏らしたため 警察官が赴任途中の副省長らを暴行

中国のSNS微信ユーザー「一人君」は5月19日、作家の梁暁声氏が数年前に発表した『九三断想』の一部を抜粋した。以下はそのあらすじ。

ある副省長が隣省へと異動になった。赴任先の大げさな出迎えを辞退して秘書と運転手だけを連れて車で任地へ向かった。道中食事を取ろうとレストランに入り注文を済ませところで、地元の警察官数名が来店した。彼らが声高に威張り散らし騒ぎ立てたので、店側は副省長らを後回しにして、急いで彼らに料理を出した。そのため、副省長らは30分以上も待たされることになった。

秘書が店側に「彼らは後から入ってきたのに、なぜ先に料理を出すのだ?」と不満を漏らしたところ、警察官たちから因縁を付けられた。中の1人は副省長に平手打ちすると、「ここではおれたちが法律だ」と言い放った。そして副省長と秘書に手錠をかけて暖房器具のパイプにつなぐと、また食事や飲酒を始めた。

運転手は店から逃げ出して省政府に電話をかけ、省政府の人は市政府に電話をかけ、その地区を担当する責任者と連絡が取れると、ようやく副省長らは解放された。この時すでに4~5時間が経過しており、この間副省長と秘書は彼らからひどい暴行を受けていた。

実のところ、この副省長の新たな職務の1つはこの省の公安部門を管理監督することだった。その後、赴任した副省長はこの件について省境の派出所に勤務していた警官全員に取り調べを受けさせ、暴行を加えた警察官らは全員罷免された。

「一人君」はこの話の登場人物について、作者の梁氏が「副省長」とした人物は実際には副書記であり、中国共産党元河北省委副書記で省長の岳岐峰氏だと分析している。1990年6月、岳氏は遼寧省委副書記・省長代理として任地に赴き、主に遼寧省の公安関係の仕事に携わっていた。

 誰もが次の「雷洋」になりうる

この一文の冒頭には、梁氏による以下のコメントが記されている。「公安局、検察院、法院における腐敗の蔓延は、我々一人一人がいつでも直接的に警察と検察の二重不正の被害者になる可能性をはらんでいる。」今回発生した「雷洋事件」によって『いつでもその可能性がある』という言葉が決して誇張ではないことが証明された。

雷氏が家を出てから警察の拘束下で死亡するまでの時間がわずか1時間余りに過ぎなかったことは、驚愕に値する事実だ。共産党政権下では公的権力が乱用され、警察は合法的に殺人を犯すこともできる。このような事件はこれまでも数多く発生しており、今回が初めてでもないしこれで終わりともならないだろう。

コラムニストの蔡慎坤氏は、この事件についてこのように述べている。

「雷氏の死は我々に、これまでにないほどの恐怖や怒りを覚えさせた。誰が次の「雷洋」となるかは誰にもわからない。ひょっとしたら、私たち全員がそうなる可能性がある!民衆が雷洋の死に注目するのは人間としての正義と良識からというよりむしろ恐怖や怒りからである。公的権力に対する恐怖と怒りだ!ひとかけらの人権、人としての尊厳すらも存在しない、人の命が雑草の如く扱われる社会では、私たち誰一人として、いつどのような形で警察の車に押し込められ、死への旅路に送り出されるか分からないのだ。」

 「雷洋事件」のあらすじ

北京市昌平区在住で環境問題専門家の雷洋氏(29歳)は、結婚記念日の5月7日夜、生まれたばかりの娘に会いに来る親戚を迎えに空港へ行く途中で、同区で私服警官に拘束され、1時間後に死亡した。

事件発生後、地元警察は雷洋が買春容疑で拘束され取り調べ中に心臓発作で死亡したと公表した。

市民が撮影した拘束時の動画や目撃証言、雷氏の行動時間の記録、遺体の状況を総合すると、警察の公表には明らかに説明できない矛盾点が数多く見られるため、中国国内で大きな話題になり、ネットのみでなく国内メディアもこぞって事件を報道した。

暴行を働いた地元警察を刑事告訴するために、雷氏の家族と弁護士によって検察側に提出された被害報告書には、雷氏の親族5人が検視場で雷氏の遺体を確認したところ、全身が傷やあざだらけで、中でも睾丸が異常に腫れ上がっており、雷氏が暴行を受けて死亡したことは明らかだと記されている。

雷氏の拘束現場を動画に撮った人によると、雷氏は私服警官によって車に押し込まれるとき「この人達は警察ではない!110番して!助けて!」と大声で助けを求めていたという。

(翻訳編集・桜井信一/単馨)

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