台湾で最も敬愛される日本人 八田與一

中国のことわざに「飲水思源(水を飲むときに井戸を掘った人を忘れてはいけない)」という言葉がある。八田與一(はったよいち)は、日本統治時代の台湾でダム建設に尽力し、没後70年以上たった現在でも台湾の人々にダム建設の父と呼ばれ、台湾の人々に愛されている。八田は、日本統治時代の台湾で農業水利事業に32年間献身し、嘉南大圳のダム建設を担当し、干ばつと水害の繰り返しで食物が一切収穫できなかった嘉南平原を台湾最大の穀倉地帯へ変え、当時東洋一の大きさを誇るダムを完成させた。現在でも台湾の教科書には八田の業績が詳しく紹介されている。

八田は1886年に日本の石川県河北郡花園村(現在は金沢市今町)に生まれ、明治43年に東京帝国大学工学部土木科を卒業後、台湾総督府内務局土木課の技手として就職した。

八田は24歳のときに台湾へ渡ってから、嘉義市・台南市・高雄市などの各都市の上下水道の整備を担当した。その後、28歳の時に桃園大圳の水利工事を一任され、成功させて高い評価を得た。八田の台湾での最大の功績は烏山頭ダムと嘉南大圳の建設で、二つの工事に八田は人生の黄金期を捧げた。八田は水さえあれば、嘉南の不毛の地は必ず肥沃な平野になると考え、官田渓でダムを建設して、嘉南平野まで排水路を広く設ければ、塩害や洪水を防ぎ、貯水するだけでなく、農作物の生産高も大いに増加するだろうと考えた。

烏山頭は「溝離れ式ダム」のため、竣工まで10年かかった。主要な水源は曾文渓から引いている。その経路は総長3122メートルのトンネルを経由し、烏山嶺の西口まで達してから官田渓の上流に入り、最後には烏山頭ダムに流れ込む。烏山頭ダムまでの流域面積は合計して561平方キロメートルになる。

八田は10年の月日を経てダムの工事を完成させたが、その大変さは想像を絶するものだった。近代的な科学技術を誇る日本のエンジニアでさえ容易に完成できないほど大規模な工事だった。昼夜休まず、当時台湾で流行していた伝染性の熱病やマラリアなどの疾病の危険性も顧みず、嘉南平野の各隅に深く入り込んで調査・測量し、水源の調査レポートを完成させた後、ツツガムシが多く生存する地区や衛生条件の非常に悪い原始林の地帯にも入り長く留まり、命を掛けて大事業に取り組んだ。

着工して間もなく、八田は工事の従業員の気持ちを考え、「良い仕事は安心して働ける環境から生まれる」という考えから、全家族対象の従業員宿舎や、娯楽施設、商店、学校、医療施設などを建設した。その他、彼は従業員らの賃上げや、けが人や現場工事を監督する人などを休ませるための措置も提案し、その卓越した管理方式と思いやりから、多くの従業員が彼を慕っていた。

ダムの完成により、毎年の雨季にくる洪水の災害がなくなり、乾季の水不足も解消され、嘉南地区の干ばつに苦しんでいた15万ヘクタールの大地が、作物を育てることができるようになった。6千キロメートルにわたる排水路も、土壌に含まれていた過剰な塩分を取り除いただけではなく、砂の塵が舞い上がる不毛の地を耕作できる土地に変えた。その結果、それまで天候に左右されていた1万ヘクタールの土地は天候の影響を受けずに栽培できるようになった。ダムが完成した3年後、イネの年間収穫量は8万3千トンの増収となり、金額に換算すると、イネの場合は800万円、サトウキビは1150万円、雑収穫は110万円、合計2060万円の増収になった。その時から、八田の名前は深く嘉南地区の民衆の心の中に刻まれ、人々は八田を「嘉南大圳の父」と呼ぶようになった。

2011年には台南に「八田與一記念公園」がオープンし、当時八田と所長や主任などの主要関係者が住んでいた4棟の日本式家屋の部分が復元された。また、烏山頭ダム湖を見学することもでき、そこには八田夫妻の銅像と墓も設置されている。この銅像は、第二次世界大戦中の金属供出時にも、その後の中国国民党政権の日本文化破壊時にも、現地の人によって他の場所に隠され、守り通されていたという。現在も5月8日に八田與一の追悼式が毎年行われている。

(翻訳編集・張ミョウ)

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