人民元のSDR採用 象徴的意義しかない

国際通貨基金(IMF)のラガルト専務理事は11月13日、中国の人民元をIMFの特別引き出し権(SDR)構成通貨に加えることを支持するとのコメントを発表した。また、中国国内外の複数のメディアは、11月30日に開催予定のIMFの理事会で人民元が正式にSDR構成通貨に採用されるとの見通しを報道した。

現在、IMFのラガルト専務理事のほか、イギリス、ドイツなど欧州勢主要国が人民元のSDRへの採用を支持すると表明している。米国は今月上旬に中国当局がIMFの制定した基準を満たせば支持すると示した。30日に開催されるIMFの理事会では出席者の70%の賛成投票があれば、人民元がドル、ユーロ、ポンド、円に次き、SDR構成通貨に採用される公算である。

 資本流入の可能性低い

フランス金融機関大手のソシエテ・ジェネラルはこのたびの人民元のSDR採用で人民元が各国中央銀行の準備通貨の一つとなっても、巨額な資金が中国に流れる可能性は低いとの見方を示した。

ソシエテ・ジェネラルは各国中央銀行がすでに人民元建ての準備資産を保有しているとし、「もし各国中央銀行の準備高全体に占める人民元の割合が現在の円とポンドの水準に達するなら、将来5年間に中国に約2100億㌦(約25兆8300億円)の資金が流れていくだろう。しかし、これは非常に低い水準だ」と示した。

中国人民銀行が発表した統計によると、今年4月までに世界各国中央銀行が保有する人民元建て資産が約1070億㌦(約13兆1610億円)で、中国を除く世界の準備高総額の1・4%にあたる。英銀行大手のスタンダード・チャータードが5月に発表した調査報告書によると、世界各国中央銀行と政府系ファンドが保有する人民元建て資産が約700~1200億㌦で、世界の準備高の0・6%~1%を占めている。

 人民元安基調が続く

中国人民銀行が8月11日~13日に人民元の対ドルでの「基準値」を累計4・6%切り下げた。その後、中国経済減速の鮮明化でオンシュア(中国本土)とオフシュア(中国本土外)人民元市場で対ドルでの人民元安基調に推移してきた。

一部の専門家は人民元がSDR構成通貨に採用されることは人民元国際化の終わりではなく、中国当局は依然として人民元を含む金融改革・自由化を進めていかなければならないと指摘する。また、各国中央銀行と政府系ファンドがすでに人民元建て資産を保有しており人民元への需要が急激には増えない点と、中国国内経済が引き続き鈍化すると見通され、そして米国連邦準備制度理事会(中央銀行、FRB)の12月利上げ観測の高まりから、人民元安基調は短期的に変わらないとみられる。市場関係者は今年末までにオフシュア人民元市場で現在1ドルは6・4元台前半から6・5元台の水準までに下落するだろうと推測する。

また、人民元のSDR採用の中国本土A株式市場(人民元建てで国内投資家向け株式市場)と債券市場への影響は短期的に大きな変化はないとみられる。ただ、今後中国政府当局がIMFの提出した「人民元が自由に使用できる」との条件を満たし、金融改革と政策の透明さを着実に進めていけば、資本取引の自由化で中国株式市場と債券市場が開放的かつ成熟した資本市場になることには間違いないと国内外の専門家は期待を高めている。

 

 

 象徴的な意義しかない

一方、多くの専門家は中国人民元がSDR構成通貨に採用されることは象徴的な意義しかなく、実際には人民元は国際通貨としての役割がまだ果たせないという。

北京大学国家発展研究院の徐遠教授が9月末に国内ニュースサイト「澎湃(The Paper)に寄せた評論では「IMFのSDR発行総額が2040億単位で、2870億㌦(約35兆3010億円)規模に相当する。しかし世界の準備高総規模が11兆4千億㌦(約1402兆2千億円)で、SDR総額がその2・5%しかない。また世界の準備高のうち、ドル建てとユーロ建て資産がそれぞれ64%と21%を占める。SDRは準備通貨ではなく、外貨準備不足となった国がIMFにSDRを渡すことで流動性を補充されることができるとの緊急事態措置で、外貨準備を必要とする国はわざわざSDRを貯める必要がなく、直接ドルとユーロ資産を貯めることにするだろう」とし、「したがって、人民元がSDR構成通貨バスケットに加わることは実はそれほどの利点がなく、中国の外貨準備構成と金融政策に直接かつ実質的な影響はない。もし何かの良いことがあるとしたら、それは中国のメンツを保つことができたに過ぎない」と指摘する。

香港紙「東方日報」によると、米資産運用会社インベスコ・リミテッド社チーフエコノミストの祈連活氏は「人民元がSDR構成通貨バスケットに採用されても、今後各国中央銀行は外貨準備として人民元建て国債を増やす可能性は低いだろう」と指摘し、米ドル建て国債(米国債)が依然として各国中央銀行のベストチョイスで「なぜなら、米国債は民間機関投資家も取引できるし、深く、かつ流動性の強い市場で自由に取引できるため、人民元はまだまだ程遠く及ばないのは明白だ」と示した。

人民元が真の国際通貨になるには、中国政府がこれまでの厳格な管理体制をやめ、資本市場の自由化をはじめとする金融改革をどれだけ真剣に進めていくかにかかっている。IMFと米国、イギリスなど先進国が人民元のSDR採用を支持した本当の狙いは、それをきっかけに中国の経済金融ないし政治体制の改革を促すところにあるのだろうか。しかし、8月中国株式市場の暴落後、中国政府当局の過剰な市場干渉が未だ記憶に新しい。中国経済が世界経済の中ですでに重要な影響力を持っている以上、世界各国の期待を裏切らなければいいのだが。

        (翻訳編集・張哲)

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