「銃を突き付けられても言えない」 江沢民「病死」報道の舞台裏
【大紀元日本10月6日】7月6日に香港のテレビ局・亜洲電視(ATV)が報じた中国の江沢民前国家主席「病死」ニュースは、同局副総裁の引責辞任で幕を降ろそうとしているが、情報源は「局に影響力のある人」など、新たな情報も明らかになっている。「銃を突き付けられても言えない」ほどの黒幕の存在や、共産党高層の熾烈な権力闘争が垣間みえるこの一件は3カ月経った今でも波紋を広げている。
放送までの経緯
放送から2カ月経った9月5日、ATV報道部門の実質的責任者である梁家栄・高級副総裁が辞任した。
梁氏は、7月7日にすでに辞表を提出したと話している。辞任の理由について、「できる限りの努力を尽くしたが、このニュースの放送を阻止できなかった」と権力者の干渉をほのめかした。
一方、9月19日に香港立法会(議会)が梁氏に対して聴聞会を開き、同局の株主が報道に介入したのではとの疑いを追及した際に、梁氏は、誤報は「消息筋を誤って信じた」自分の誤りが原因だと言い方を微妙に変え、消息筋は権力者かどうかについての明言を避けた。
梁氏は「訃報を流すよう消息筋に迫られた。裏が取れないため拒んだが、最終的に私は過ちを犯し、消息筋を信じてすぐに放送した」と述べたが、消息筋が誰なのかは「銃を突き付けられても言えない」という。
この発言に対し、立法会に出席した張文光議員は、「報道を要求したのが権力者ではなく単なる消息筋なら、なぜ阻止できなかったのか」と追究したが、梁氏は明確に回答せず、ただ「(9月5日辞任時の)前言は撤回しない」と強調した。
9月25日、梁氏は香港ラジオのインタビューに、放送を促した情報源はATVに「影響力のある人」だと明かした。梁氏が部下と一緒に情報の裏を取っている最中にも催促の電話が入り、「十数分間にわたって議論した」「強い圧力を感じた」という。
さらに梁氏は、情報源は「消息筋」その人ではなく、「(その人が別の)消息筋の話を伝えただけ」だと疑っていると語り、他に共産党の高層とつながる消息筋がいることを示唆した。
また放送した日の夜7時ごろ、通常赤だったATVマークがモノクロになっていることに気付いた梁氏は、通常色に戻すよう提案したが、「梁副総裁の管轄範囲外だ」と断られた。一方、その後の特集番組の放送を停止できたことは、唯一の救いになっているという。
権力者のメディア介入
梁氏はラジオのインタビューに応じた際、江沢民訃報をめぐる経緯は香港メディアに自省を促したと指摘。「香港の核心価値が邪魔されているかどうか、メディアが操作されているかどうか」に注意すべきだと警鐘を鳴らした。
香港記者協会の胡麗雲会長は、梁氏が明かした「消息筋の話を伝えた」人の存在は、ATVの報道部門がすでに長い間、権力者の干渉を受けていることを裏付けていると分析。共産党政府や香港政府からの指示がこういった「代理人」を通じて伝達されるルートが存在し、このルートを通じて過去にもATVはコントロールを受けているとの見解を示した。
江沢民の訃報を流した「代理人」と本当の「消息筋」の身分を明かす必要があると胡氏は主張し、関連法律に基づいて、関係者全員から事情聴取し真相を明らかにすべきだと強調した。
海外の中国情報誌・新紀元週刊はATVの上層部(匿名)の分析を伝えた。ATVが訃報を伝えた時に「本局情報」として放送したことは通常の報道手法から逸脱していると指摘。ATVは共産党直轄のテレビ局ではないため、報道するとしても、消息筋の情報を引用した形で報じるべきだという。「明らかに香港メディアのやり方ではない。共産党高層の直接指示によるものだ」
権力闘争の修羅場
ATVのオーナー王征氏は江沢民の親戚だとされ、江派の一員だとみられていたが、訃報の放送は明らかに胡錦濤派に有利だった。香港紙アップル・デイリーに掲載された時事評論家・李怡氏の「江沢民訃報が錯綜」の評論記事で、「もしある人が江危篤の実情と政局の情勢を知っていて、かつその人が江沢民の親戚でメディアのオーナーであれば、これは彼が胡錦濤派にくら替えするチャンスだ」と、放送を指示したのは王征氏だと分析した。
一方で、江派は猛烈な巻き返しをはかった。7月7日の新華網のトップ記事には賀国強、賈慶林、周永康といった江派人員が前後して登場し、派閥の勢力が健在であることをアピールした。
香港の政治月刊誌・前哨の劉達文編集長は、これは共産党の派閥闘争が激化した表れだと指摘した。「新華社や人民日報は共産党の喉舌であり、どれをトップ記事にするかは党側の具体的かつ厳格な指示に従っている。江派閥がトップ記事を飾るのは、まだ大局を握っていることを外部に印象づけようとしているからだ」
その後のATVへの強い風当たりもそうした派閥争いの一環だとみられる。一方、まだ生きているとされる江沢民は訃報から3カ月、一度も公衆の面前にその姿を現したことはない。