<中国の深層>町を丸ごとコピーする「山寨文化」 「反主流」の側面も
【大紀元日本9月3日】ユネスコ世界遺産にも登録されたオーストリア中部の町ハルシュタットは、ハルシュタット湖畔に佇む美しく静かな町である。しかし、今年4月から、遠く中国の広東省恵州市で、ハルシュタットをコピーした町の建設が急ピッチで進められている。
「この400年の歴史をもつ宿は、私の所有する芸術品よ。私の許可なしでコピーするなんて、人の絵を盗作するのと同じ」。ハルシュタットの老舗宿のオーナー、モニカ・ウェンガーさんは不満を口にした。
コピーが本家にバレたのは、ウェンガーさんの宿に泊まった「観光客」が持っていたハルシュタットの図面だった。宿はコピープロジェクトの中で町のランドマークとされている。「知らない間に町にやってきた『観光客』が町を測量したり、コピー目的であちこちを撮影したりしているのは不愉快だわ」とウェンガーさん。村長のアレキサンダー・シュルツさんは「これでまた町の知名度が上がる」と寛容な反応を示しながらも、「これらの図面を見た時は、すでに既成事実となっており、取り返しがつかないと思った」と話した。図面にはベランダに使われる木材まで明示されており、「見た時はさすがにあっけに取られた」という。
町をコピーしているのは、中国国有エネルギー大手の五鉱集団傘下の五鉱建設。コピー村は「ヨーロッパ風高級住宅街」として建設されており、オーストリアの土産店や「町の雰囲気に合う」商店街も作られるという。同社のホームページでは、ハルシュタットをコピーしていることについては言及していない。
山寨とは
ハルシュタットをコピーするような行為、またそれによってできたパクリは、中国語で「山寨(サン・ジャイ)」という。もともと反政府ゲリラや山賊が山中に築いて立てこもった要塞や砦を意味するが、1980年代から、広東省深セン市の地下工場で作られた違法コピー商品にSZ(深センの発音の頭文字)が印刷されていることから、同じ頭文字をもつ「山寨」がそれらの商品に使われるようになった。
そして今、まさに山賊のように広がる山寨商品は、モノからコンセプトにまで、一棟の建物から町丸ごとにまで存在し、中国社会の隅々に染み渡り、違和感が感じられないほど中国人の生活の一部になっている。
「朝、hiphone(iPhone)のアラームで起き、PAMA(PUMA)のTシャツを着て、HIKE(NIKE)の靴を履いて、abcids(adidas)のバッグを斜めにかけて出かけた。中国石油でガソリンを入れたと思ったら、レシートで「中囲石油」だったと気付く。昼はKFG(KFC)でハンバーガーを食べ、中萃(中華)たばこを一服…」。ネットユーザーが書き込んだ「山寨の一日」は中国の無尽蔵の山寨商品の実態をさらす。
山寨商品はかつてはブランド品のマークを模倣するのが主流だったが、最近では商品そのものの色と形を入念に模倣する傾向になっている。ブランドのバッグや腕時計、マフラーがもっとも標的にされやすい。しかし、贅沢品のパクリは氷山の一角にすぎない。「売れるもの」ならなんでも山寨にされる運命が待っている。時には山寨商品は子供のおもちゃや薬、車の部品などにおよび、危害をもたらすこともある。
ラジオ・フランス・インターナショナル(RFI)は、フランスのワイン商は中国でイベントを開催した後、必ずワインの空き瓶を砕くと報じた。その理由は、空き瓶が残ったら、安価な山寨ワインを入れられブランドに傷がつく恐れがあるからだとしている。中国製の名酒の空き瓶やタグも日本円で1個1万5000~3万円で山寨酒商人に買われ、安いお酒を名酒に変身させる道具にしている。中国では回収業が盛んな理由はこういった山寨ビジネスの需要が一因になっているという。
中国のネットユーザーは、「山寨の究極の境地は、自身が正規品のつもりでいること」と揶揄する。最近では、この境地に到達してしまった山寨商品が出現した。7月に世間を騒がせた「偽アップルストア」が発覚したきっかけとなった昆明市在住の米国人のブログでは、偽ストアが「これまで見た中で最高のパクリだ」とし、店員たちは「自分たちがアップルで働いていると心から思っている」とつづられていた。また先月、同じく昆明市で「イケア(IKEA)」を外観から内部の装飾まで真似した偽イケアこと「十一家具」も話題になった。ロイター社は、偽イケアは中国の新しい「山寨文化」だと指摘する。
山寨文化のもう1つの側面
一方、主に庶民を対象とする山寨商品には「反主流」「反権力」というもう1つの側面もある。主流文化を真似しながら、風刺する。言論規制の厳しい中国で、庶民は山寨文化を用いて当局を批判し、不満を発散している。
その中でももっとも有名なのは「山寨春晩」。中央テレビ(CCTV)が総力を挙げて制作する旧暦大晦日に放送するこの体制美化の番組が、2009年からは年々「山寨版」の挑戦を受けている。山寨春晩のプログラムはネットユーザーから募集する形を取っており、初年度の2009年には数日で700以上の「山寨プログラム」の応募が殺到した。
プログラムは1年間に国内で起きた理不尽な出来事を題材とし、出演者の名前も社会現象を揶揄するものが多い。2011年版には「独唱:オレのおやじは李剛だ」や「踊り:天上人間」などの曲目が入っており、出演者はそれぞれ「李啓明(李剛の息子) バックダンサー、官二代」、「北京と地方のナイトクラブ」という名前になっている。「山寨春晩のプログラムは民間版の年間トップニュースだ」と言われるほど、庶民の注目事件に焦点を当てている。
格差社会に後押しされる山寨商品
山寨春晩に代表される草の根文化は「山寨」に「庶民」という意味を与え、それはまた山寨商品の横行に一役買ってしまうことになっている。
山寨商品でもっとも普及している山寨携帯を例に挙げると、海外メーカーの正規携帯は1台2000~3000元(約2万5000~3万6000円)だが、これは庶民の1カ月分の給料にあたる金額だ。そこで、山寨携帯なら10分の1の200~300元で手に入る。NokiaがMokiaになり、iPhoneがhiphoneになっているぐらいで、性能はさほど変わらない。
収入格差の激しい中国では、こうして正規品は「上流社会」向け、山寨品は「下流社会」向けという棲み分けの構図ができている。上流社会は国内の山寨商品を恐れ、海外でブランド品を買い漁り、「メイド・イン・チャイナ」の標識に過剰に不審な目を向ける。一方、庶民はたとえニセモノであっても、手の届くはずのない正規品を尻目に、悪びれることなく山寨商品で思いを満たす。
世界でひんしゅくを買っている中国の山寨商品。著作権など他者の持つ権利を尊重する意識の低さに加え、根底には中国社会に存在する各種の格差が促進剤になっているようだ。