ウイグル大規模デモから2年 イスラム過激派の問題は中国に存在するのか

【大紀元日本7月5日】新疆ウイグル自治区で起きた大規模デモから2年、さらに当時のブッシュ政権が「テロとの戦い」を宣言した9.11米国同時多発テロから、今年で10年目になる。「ウイグル人にイスラム過激派が起こすような行動要素はない」と専門家の意見を引用し、中国国内におけるイスラム文化と民族・宗教に関する問題について、中国在住の米国人ジャーナリスト、キャサリーン・マクラフリン氏が先月、「中国がテロに晒される脅威論」を否定する分析記事を、世界時事専門誌・グローバルポストに発表した。

2009年7月5日、「自由が欲しい!」と、新疆ウイグル自治区ウルムチ市に数千人の住民の声が響き渡った。中国政府や漢民族への警戒感と、抑圧に対する反発心が、ウイグル人たちを動かした。武器を全く持たず、学生や女性も多く参加していたデモ隊に対し、中国武装警察は戦車を出動させ、水平射撃を浴びせ、強引に鎮圧した。翌日、数千人のウイグル人男性らが街から忽然と姿を消した。「連行されたのか、殺されたのか、全くよく分からない」と、夫が行方不明となったウイグル人女性は訴えた。

このデモから2年、ウルムチ市内の武装警察部隊の巡回は減りつつあるが、同地区における双方が抱く確執が解消されたとは決して言えない。子供たちの教育機会、ウイグル語を話せる環境、イスラム文化の表現はそれぞれ厳しく規制されており、共産党員以外の就職は極めて難しい状況が続いている。

市内レストランで働くウイグル人女性のエルティさんは、「両民族はともに新疆に住んでいるが、互いのコミュニケーションと理解がなさ過ぎる。このままではまた何か起きてもおかしくない」と、更なる衝突の再発を懸念している。

これらの中国政府による不平等な規制は、同地区が建国されて以来存在していたが、10年前の9・11米国同時多発テロ以降、さらに厳しくなり、中国に1000万人いるとされる新疆ウイグル地区のイスラム教徒たちに緊張を与えた。なぜなら米国の「対テロ戦争」に、中国胡主席は支持すると明言していたからだ。

しかし、今から2カ月前、米国はイスラム過激派組織アルカイダの精神的指導者であるウサマ・ビンラディンの殺害を伝えた。

「ビンラディン死亡」のニュースは、新疆ウイグル地区に一時の安堵をもたらした。北京の中央民族大学に勤めるウイグル人学者のイリハム・トフティ氏は当時、これについて「ほっとした」とVOAの取材に対して発言しており、同氏が運営するウイグル情報サイトには、「ビンラディンのせいで我々はひどい目に遭ってきた」というウイグル人のコメントも寄せられた。

しかしこの安堵を打ち破った、あるいは打ち破ろうとしたのは中国政府だ。同ニュースが流れた同日、中国外務部・姜瑜報道官は「中国もテロの被害者だ」と会見で発言し、「東トルキスタンのテロ勢力を討つことは、国際的なテロとの戦いの重要な一環だ」と発言した。

実は、ビンラディンは同組織を指導する間、国境を越えた中国のイスラム文化圏・新疆ウイグル自治区のウイグル族について言及することは過去になかった。

ビンラディンは、ウイグル族への同情、中国政府への批判、また脅威を見せ付ける、などのこともしなかった。

示されない証拠 中国は過激主義の脅威に直面しているか

中国在住ジャーナリスト、キャサリン・マクラフリン氏は、イスラム過激主義の脅威を体験する他の国と違い、「根本的なイスラム過激派の問題が存在するのか」というはるかに基本的な問題を、中国の場合は見る必要がある、と指摘する。

ウイグル人権プロジェクト(本部・米国ワシントン)のヘンリク・ザドジエフスキ代表は「中国が実際に過激主義の脅威に直面していると国際社会に信じさせたいなら、政府はそれをはっきりと証明する責任がある」と述べた。

これまで中国政府はその「証拠」を提示してきたが、疑問が残るもので、実証には程遠いものだったという。なぜなら「中国国内、あるいは国外の独立機関でさえも、公な調査をすることが不可能なので明確にできないままだ」と話す。

中国からの独立分離を主張するウイグル人らは、他国のイスラム過激派テロ集団と同じだ、と中国政府は主張する。しかし実際、ウイグル人分離主義者たちは、典型的なイスラム原理主義者とは異なる。むしろ、ウイグル人らは宗教的問題が生じることに嫌気がさしており、自分たちの考えに「原理主義者」としての像を描かない。

1955年の同自治区設立以来、政治的・文化的迫害とそれに対する抗議デモは幾度か発生したものの、爆発物の爆破や銃器による武装など、原理主義者にあるような暴力行為を、ウイグル人はめったに行わない。

専門家は、中国政府はイスラム教を含む潜在的宗教文化に対する理解を示しておらず、これが双方の巨大な溝を作っている、と指摘する。米ポモナ大学の中国・ウイグル研究者のドル・グラドニー氏は、「イスラム文化に対する『恐怖心』が、中国政府の官僚、学者や一般人に広がっている」とし、相互理解の大きな妨げになっているという。

中国が抱く、ウイグル人への「恐怖心」については、武装警察部隊北京総隊大佐が匿名で、ジャーナリスト・富坂聡氏の少数民族問題に関する質問に対して、「われわれは治安維持という観点からすれば、国際社会で大きく取り上げられる対チベット族についてはたいした問題だと考えていない。武装訓練や武器をもつ東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)の方が、その破壊工作のレベルから見ればとてもやっかいだ」と答えているが、その証拠は示されておらず、そのような実態も報告されていない。

ドル・グラドニー氏はさらに、2009年7月5日のデモの時でさえ、ウイグル人は中国側との対立を避けたという。グラドニー氏によると、ウイグル人らの生活・習慣はどちらかというと中央アジアのそれに似ているという。つまり、比較的ゆるい信仰と、東西の文化の影響を受けている人々だという。「イスラム原理主義者の言う『聖戦』を望まない彼らは、宗教問題でなく社会平等、労働問題などに興味を持っていた」と解説する。

それにもかかわらず、中国政府は、暴動はウイグル人の扇動と過激派の仕業だと主張する。

政府系シンクタンク「現代国際関係局」の対テロ政策専門家・李氏は、「暴動という噴火があった時点で、彼らの過激派の面が現れたことを意味する。イスラム過激主義は、他のいかなる価値や概念より先頭に立つ」と見ている。

ビンラディン死亡の報道から5日後、ウイグル族文化の核である古代シルクロードとオアシスのあるカシュガル地方に、中国政府は「テロ対策」警戒前線を敷いた。その目的は、『テロの恐怖と脅威』に晒されている中国を国際社会にアピールするためだとし、「ビンラディン死後の『脅威』の存在に対するレトリックを再構築している」とザドジエフスキ氏は分析している。

(翻訳編集・佐渡道世)
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