経済協力も「限定的」効果 窮地に置かれた南シナ海問題 

【大紀元日本5月6日】中国は先月14日、国連に文書を提出し、3月下旬からエスカレートしてきているフィリピンとの南沙諸島をめぐる領土紛争について、はじめて「侵入」という言葉を使い、フィリピンを強く非難した。そして、両国が「一触即発」状態に陥る中、温家宝首相は、突然のとりはからいで、4月27日から30日の日程でマレーシアとインドネシアを訪問した。この時期の温首相の外遊は、「経済協力」という手土産で、窮地に置かれた南シナ海問題の打開をはかるためだと専門家は分析する。

今回の訪問を公表したのは1週間前の4月21日。出発前に温首相は北京で訪問先両国の記者を招き、「南沙諸島は中国固有の領土」という中国の南シナ海における一貫した主張を繰り返したという。

4日付のラジオ・フランス・インターナショナル(RFI)は海外評論家の見解として、中国が南シナ海問題において長年維持してきた「多角けん制」の局面が壊れかけていると指摘した。焦りを感じる中国政府は、今回の訪問を通して、経済協力という形でマレーシアとインドネシアを味方につけ、両国およびフィリピン、ベトナムなどの東南アジア諸国が形成する「南沙利益同盟」を内部から瓦解する試みだと専門家は分析する。

中国紙・経済観察報は2日、同紙コラムニスト王暁夏氏の論考を掲載した。王氏は、中国がマレーシアとインドネシアに「金銀投入」しても、両国の立場を変える上での効果は、極めて限定的という見解を示した。両国が南シナ海問題で主張する根本利益はフィリピンと同じであり、共に中国と領土権をめぐって争っている。いわゆる「唇亡歯寒」の関係、つまり、根本的な領土権を失えば、いかなる経済協力も意味をなさないという論理は両国も熟知しており、そのため、中国の多方面にわたる「努力」は不発に終わる可能性が大きい、と王氏はみている。

王氏はさらに、いま中国にとっての南シナ海の根本利益は、領土や資源に止まらず、周辺情勢を安定化させ、経済発展のために時間稼ぎをすることも含まれると指摘。いったん中国と周辺国との衝突が起きた場合、直ちにマラッカ海峡の通過に障害が生じ、中国の貿易とエネルギーを支える「南シナ海通路」が脅かされることになる。

そんな中で、東南アジア諸国連合(ASEAN)に「一体化」の傾向が見られると王氏は指摘する。外交政策においても結束が強まり、中国が主張する「両国間協議」は必ずしも有効ではないと分析した。ASEANは1つの集合体として、日米同盟と中国という2つの勢力の間で自らの立場を常に調整している。中国からの脅威をそれほど感じない時は、彼らは中国と手を取り、日米勢力が南シナ海に及ぶことに警戒し、中国が脅威的な姿勢にでた時は、彼らは日米同盟の力を借りて中国に対抗する。王氏は、この「三者互角」の局面は今後も長く続くと指摘し、中国は南シナ海での窮境を打開することは容易ではないとの見方を示した。

さらに皮肉なことに、温首相がマレーシアとインドネシアに、中国の南シナ海問題に臨む「平和的姿勢」をアピールしている間、両国のメディアやネット上では中国初の空母「ワリャーグ」号が南シナ海情勢に及ぼす影響についての論議が盛んに行われていた。空母はテスト運航後、南シナ海艦隊に配属されるという噂もあり、南シナ海周辺諸国にとって脅威的な存在になることは間違いない。「これらを背景として行われた温首相の遊説と懸命な取り込みは、果たしてどれほどの効果があるのだろうか」と王氏は疑問を投げかけている。

(翻訳編集・張凛音)
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