「銃弾を飛ばせ…」 2011年の中国、キーワードは革命

【大紀元日本1月28日】「土下座するのを辞めなさい。皇帝はすでに居なくなったのに、誰に対して土下座するのか」と言った後、パーンと弾丸が飛んだ。そうして革命が起きた…

これは中国で上映中の映画『譲子弾飛』(銃弾を飛ばせ)の1シーン。中国映画界の名俳優・名監督の姜文がメガホンを取り、昨年12月16日から今年のお正月映画の目玉として打ち出され大ブレーク、初日の観客動員数は76万5000人に達した。上映1カ月間の興業収入は6.5億元(約80億円)を超え、国産映画の中では30年来の最高傑作との評判で、大きな反響を呼んでいる。

革命の肯定で大ヒット

その大ヒットの理由は、正義を貫き悪を懲らしめる暴力革命への肯定であると言われている。

映画は1911年に起きた辛亥革命後の北洋軍閥時代を背景にしている。鵝城(「悪の城」と同音)という空想の町に民衆を酷使して富を牛耳ってきた権力者がいる。民主理念を持って辛亥革命に参加したが、革命の成果が北洋軍閥にすり替えられた後盗賊の頭になった勧善懲悪的なものがいる。その盗賊の頭が、貧しいものの味方になって、民衆を扇動して権力者を殺した。

時代と場所を拝金主義と腐敗が横行する現代中国に置き換えれば、どこで起きてもおかしくないストーリーだ。

「中国の革命史百年を濃縮した内容」と評されるこの映画には、数多くの暗喩のイメージが使われており、共産独裁政治や、六四天安門事件、腐敗官僚などを観客に連想させる。革命による権力者への復讐の痛快さがこの映画が絶大な人気を得た理由だとも指摘されている。

その隠された革命のメッセージのためであろうか、映画上映後しばらくして、管理当局の中国広電総局は各地に緊急通達を出し、『譲子弾飛』の上映回数を減らし、宣伝も控えるよう注文を付けた。

しかし、すでに飛ばされた銃弾は回収不可能だ。『譲子弾飛』はすでに大人気となり、映画タイトルを真似て、「譲地価飛(地価をどんどん上げよう)」「譲導弾飛(ミサイルを飛ばそう)」「譲工資飛(給料を上げろ)」などの風刺語がネット上で流行り、社会現象となっている。

名俳優として中国で人気を博した姜文は、1963年に軍人の父と音楽教師の母のもとで生まれた。初監督作は『太陽の少年』。自らの少年時代の体験を基に、文化大革命下の北京で暮らす少年たちの姿を描いたこの作品は、ベネチア国際映画祭主演男優賞、金馬奨作品賞・監督賞など数々の賞を受賞した。その後、この作品の宣伝のため日本を訪れた姜文は、東京・靖国神社で旧日本軍の元兵士たちと遭遇したことから、次作『鬼が来た!』が生まれた。しかし、当局の検閲を受けない無断出品であったことと、その後出された修正要求にも応じなかったことから、この作品は中国国内で上映禁止になった上、姜文自身も映画製作・出演禁止処分を受けた。

反逆的でかつ屈しない姜文は、映画『譲子弾飛』について、政治風刺の意図が入っているかどうかコメントしていないが、原作の小説にあった1930年代の時代背景を辛亥革命後の北洋軍閥時代に変えたことから、現実を連想させる意図がうかがえる。

1911年に清朝政府の腐敗への反発として起きた辛亥革命は、漢民族復興や地権平等を目指し、清朝を打倒して民国政府を樹立することになった。しかし辛亥革命の理念と成果は、袁世凱を中心とする北洋軍閥により撤回され、地権平等も実現しなかった。

今年は辛亥革命の百周年。中国の人口の大半を占める農民の支持によって共産党政権が革命の成果を手に入れたが、その統治下の現中国では、辛亥革命前の清政府の腐敗を表現する言葉がそのまますべて通用する。共産党政権の権力者らは、革命当初農民らに約束した土地の使用権を、再び奪おうとした。

貧富の格差が拡大し、権力の腐敗により富を積んだ権力者への敵対感情は炎上し、官民対立がピークとなって、各地で群衆抗議事件、特に農民たちが土地を守る抗争事件は、年間十数万件にも上る。土地収用により家財や生活の手段を失った一般人が自殺で抗議する事件が各地で相次いでいる。

村長の死 「銃弾を中共へ飛ばせ」

民衆の不満は、昨年のクリスマスの日に起きたある村長の死でピークになった。

浙江省内の温州楽清市は、中国でキリスト教信者の率が最も高い地区である。このような楽清市のある農村で昨年クリスマスの日、元村長の銭雲会さん(53歳)がトラックの下敷きになって死亡する事件が起きた。

銭雲会さんは村の土地が官僚により不正に奪い取られたとして、数年間にわたって政府上級部門に訴えるなど、告発を続けていた。そのため3回逮捕されて懲役刑にも服した。

政府が農民から土地を略奪しようとする不正は中国各地で起きている。この20年間の中国経済の発展は、主に土地開発と鉱山資源開発によるもので、二つとも大量の農民が土地を失うことを意味する。4年前の時点で、土地を失った農民は8千万人に達した。生活の手段を失ったその8千万人は絶えず抗議していくことであろう。

このような持続的に続く抗議運動の中で、農民リーダーが誕生した。しかし、彼らが戦っている相手は、特定の利益集団または背後にある地方政権。そのため、彼らの反抗は最初から大きな政治的リスクを背負っている。銭雲会さんの事例は、正にリーダーシップを取る農民たちの運命を表しているといえる。

村民の証言によると、事件当日、警察の制服を着た男が警棒で銭雲会さんを殴り倒し、停車中のトラックから約5メートル離れた場所の地面に押さえつけた。その後、トラックをゆっくりと動かし、銭雲会さんをひいた。ある目撃者が携帯電話で銭雲会さんがひかれた場面を取り、その映像をネット上に公開したため、国中の注目を集めた。警察は事故死と発表しているが、インターネットでは、「銭さんは殺された」との見方が多く表明された。

同事件に多くの大衆紙も注目した。1月19日、中国経済日報の記者は調査経過をネット上で発表し、現地政府当局が銭さんを殺したとの数人の証言を公開した。

政府は白昼堂々と公に、無実の人間を謀殺した。暴政下では、生きていくこと事態が危険な環境であることに、中国の民衆がようやく気づいた。全国の良識ある一般人のみではなく、大衆紙も相次いでこの事件を報道、腐敗官僚に対する恨みを洩らした。あるネットユーザーはブログでこのように綴った。

「このような悲惨なことが起きたのは2010年なのか、それとも1910年の腐敗した清朝末期なのか?彼ら(当局)は革命の名で人を殺し、改革の名で不当の財を手に入れ、調和の名で民衆の口を封じている」

この時期に上映された『譲子弾飛』で表現された権力者への復讐の痛快さが、民衆の革命願望を呼び起こした。ネット上、「譲子弾飛向暴政治(暴政へ銃弾を飛ばせ)」、「譲子弾飛向中共(中国共産党へ銃弾を飛ばせ)など、ブロガーや利用者の発言も少なくない。

2011年の中国は、革命前夜の匂いが満ちている。

(趙莫迦Zhao Mojia)
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